メリーランド州CIO E・シュランガー氏
メリーランド州CIO E・シュランガー氏
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 今年1月にメリーランド州CIOに就任したメリーランド州CIOのエリオット・シュランガー(Elliot_Schlanger)氏は、以前はボルチモア市(メリーランド州)のCIOを務めていた。同市は「シティースタット」(CitiStat)と呼ばれる行政サービス数値化モデルで一躍有名になった自治体である(関連記事)。このシティ―スタットをコールセンターに連動させる仕組みを作ったのがシュランガー氏である。

 メリーランド州は電子自治体の取り組みに関しては比較的地味な存在だったが、マーチン・オマーリ(Martin O'Malley)州知事はITの活用に熱心なことで知られる。シュランガー氏のCIO就任後に従来のIT室(予算局の一部)がIT局に格上げされたのも改革への布石であろう。IT局では、ITによる業務の合理化、経費削減、緊急事態対策のコーディネート等を目標に挙げている。

ボルチモア市のCIOを辞めてから何をやっていたのか。

シュランガー氏 ボルチモア市のオマーリ市長が州知事に当選してから、市を辞めコンサルティング会社を興した。2006年末から2007年にかけての時期だったが、お客さんもつき事業は順調に進んでいた。ところが商談でメリーランド州政府に足を運んだ際に、局長レベルのCIO職を新たに作るので昔の仲間と一緒に仕事をしないかと逆に口説き落とされてしまった。そこで1月1日にオマーリ(知事)政権に「再入隊」したわけです。

州CIOと市CIOの違いは。

シュランガー氏 ボルチモア市ではお客さんの顔が見えた。住民、訪問客、それに商店や事業者などのビジネスがお客さんであり、シティースタット、コールセンター、ビデオカメラによる監視システムなどは、市民の安全を守ることや行政サービスを提供することを目的にしていた。(ITがサポートすべき市の業務は)ゴミ集めや道路補修のように「オペレーション(現業)」が中心だったので、市当局のミッション(使命)が明快だったと言える。

 だが、州レベルでは業務のサポートではなく、ITそのものが中心になっている。私の部下に「お客さんは誰だ」と聞けば、各種の州政府機関の名前が返ってくる。お客さんであるべき市民、ビジネス、それに訪問客に目が向いていないという問題が州政府には存在する。

 次に、具体的な行政サービスの提供とは違い、州レベルでは、目標に掲げている施策(業務の合理化、経費削減、緊急事態対策のコーディネート等)の結果が出るのに時間がかかる。

 もうひとつの大きな違いは、市レベルでは市長の権限が絶対だったことだ。市長がこうやると決めれば、それを実行する権限がCIOである私に与えられたわけだが、州政府を見ると、知事は重要な人物ではあるが「王様」ではない。知事は予算カットという宝刀を持つ州議会の対応に苦労している。市時代と比べて、IT構想やプロジェクト運営にも厳しい監視の目が光る。

 また、州レベルになると何でも政治の道具にされかねないので、日々針の筵(むしろ)にすわる思いだ。

 市時代に業者との接触はほとんど無かったが、州政府は違う世界だ。大企業や業界団体などはロビイストを雇い、積極的に政治家、知事室、そして局長クラスの幹部に接触してくる。ボルチモアのIT予算は年間4000万ドル程度でしたが、メリーランド州では桁違いの7億ドルにもなる。予算が多い分、当然、企業もロビイストも必死になる。

かなりキツイ仕事のようですが、後悔はありませんか。

シュランガー氏 州政府に来て分かったことは、行政と議会が職業上、敵味方の関係になっていることだ。そのうえ州CIOの露出度は高いので、個人的には大変化と言える。就任要請を受けた時点では、州CIOは市レベルの次のステップと位置付けて考えていたが、現実にはレベルが全然違う大ジャンプになった。

 民間企業の経営感覚があるオマーリ知事には絶対の信頼をおいているので、このチャレンジはどうしても受けたいと思った。「一生に一回あるかないかのチャンス」だったので、逃げるわけにはいかなかった。

シティスタット州政府版の企画はあるのか。

シュランガー氏 メリーランド州では昨年の夏にシティスタットをモデルにした「ステートスタット」(StateStat)を立ち上げている。市と違って州政府はオペレーションに特化していないうえに、政策実施の過程は複雑に入り込んでいる。結果がすぐに見えないハンデがあるが、それでも共通の真理が2つある。1つは、数値化できるものは実行できること。2つ目は、責任説明(アカウンタビリティ)とは面と向かうことに尽きるということだ。

 各局の幹部を2週間ごとに出頭させれば、局職員の注意を引くことになる。また他局の様子が見えてくると、お互いに競争が始まり仕事振りの改善につながるわけだ。シティスタットはアカウンタビリティを徹底する管理過程のツールなので、市でも郡でも州でも効果が出るだろう。

聞き手:石川幸憲=在米ジャーナリスト(2008年9月に米国ミルウォーキー市で開催されたのNASCIO〔全米州CIO協会〕年次総会会場にて取材)