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記者のつぶやき

エンタープライズを支えるボランティア精神

田中 淳=ITpro 2008/12/09 ITpro

 メンバーが集まるのは仕事後の平日深夜か休日。活動はほとんどが手弁当で,基本的に無報酬。それでもメンバーの思いは熱い。リアルな集まりでもメーリングリストでも活発な議論を展開しつつ,個々が担当する作業を黙々と進め,成果物が徐々に形作られていく---。

 ボランティア精神と高い目標の達成に向けた意欲を持つメンバーが企業や組織の壁を越えて集まり,共同で活動する。こうした組織体あるいはコミュニティがIT業界には多数存在する。すぐ思いつくのは,オープンソース・ソフトウエアの開発をはじめとするソフトウエア技術者による活動だろう(参考記事「日本は世界一コミュニティ活動が盛んな国?」)。ソフトウエア技術に関する勉強会も含めると,ITpro読者のなかにも何らかの形で参加している方が少なくないはずだ。

 IT分野におけるコミュニティ活動はほかにもある。プロジェクトマネジャやコンサルタント,アーキテクト,IT部門のマネジャ,システム監査担当などが集まる「エンタープライズ」の分野のコミュニティも,相当数存在する。「国際的なデファクト・スタンダードとなっているフレームワークや知識体系を日本に根付かせる」「SOA(サービス指向アーキテクチャ)で日本のIT業界を救う道筋を考える」「経営とITの仲介役を務める人物像を再定義する」など活動の目的も内容も様々だが,“熱さ”という点ではソフトウエア技術者の集まりに引けを取らないと感じる。

タフな交渉を乗り切る

 筆者は最近,このようなエンタープライズ分野のコミュニティと連続して仕事をする機会があった。一つは日本ITガバナンス協会(ITGI-J),もう一つはIIBA日本支部設立準備室である。

 どちらもコミュニティというよりも,もっときっちりした組織(非営利団体もしくは非営利団体を目指した組織)ではあるが,本業を持つ人たちが基本的にボランティアで活動している点は同じだ。タイトなスケジュールで,こちらも勝手な要求を出すなか,統率を取りつつきっちり成果物を作り上げる熱意と行動力には感銘を受けることしきりだった。

 ITGI-Jとは2008年9月に出版した「COBIT実践ガイドブック」という書籍の作成に協力した。ご覧いただいた方がいるかもしれないが,この本はかなりのボリュームである。300ページ弱で,文字がぎっしり。なかなか全貌が分かりにくいITガバナンスのフレームワーク「COBIT」を日本の情報システム担当者に腑に落ちる形で説明しようとすると,これくらいのボリュームが必要だったのである。筆者の数はレビューア2人を含め,総勢22人に上った。

 書籍に限らずどのプロジェクトもそうだが,ステークホルダー(利害関係者。この場合は書き手)の数が多くなるほど,どこかで統制にほころびが生じる可能性が大きくなる。書籍の場合なら,どこかのパートだけ締め切りを過ぎても完成しない,品質にバラつきが生じるといった具合である。まして今回はすべての原稿が新規。しかも企画を持ちかけてから出版までの期間を1年弱と設定しており,期間の余裕がない。

 にもかかわらず,プロジェクトは基本的に非常にスムーズに進行した。プロジェクトリーダー格の2人を頂点に,パートリーダーの4人,実際の執筆陣(プロジェクトリーダーとパートリーダーの人たちも執筆に加わった),レビューア2人という体制をあっという間に作り上げ,ほぼすべての原稿を予定どおりに仕上げた。その統率力はお見事というしかなかった。

 ITGI-Jの人たちが,多大な犠牲を払って作業を進めたのは容易に想像がつく。担当したのは第一線で活躍されている人たちであり,ミーティングは土曜日か平日夜だった。そのタイミングしか集まれないのである。そのうちの一部に筆者も参加したが,多忙な中にもかかわらず,雰囲気はいつも活発かつ前向きで,こちらも励まされた。実際の執筆も本業の合間を縫って,無理をして進められたはずだ。

 最大の問題は思わぬところで発生した。詳しくは明かせないが,作業が最終段階に近付いていたところで,ある交渉事の必要性が生じたのである。この問題が解決するまで,作業を一時ストップせざるを得なくなった。

 ここではリーダー格の一人が粘り強く先方と交渉を続けた。このリーダー格の人も本業は別にあり,しょっちゅう海外を飛び回っている。そうした中での交渉は相当タフだったそうだ。しかし,トータルで3カ月以上を費やし,何とかカタを付けることができた。こうして出来上がった「COBIT実践ガイドブック」は手前味噌ではあるが,経営にITを生かすためのITガバナンスの姿を正しく知る上で欠かせない書籍となったと思う。

景気後退の荒波を乗り越える力になり得る

 一方,IIBA日本支部設立準備室には要求分析に関する知識体系「BABOK」に関する寄稿をお願いした。IIBA日本支部設立準備室はその名の通り,BABOKの策定元であるIIBAの日本支部設立を目指した有志により作られた組織である。ITGI-Jと同じく,本業を持つ人たちがボランティアで参加している。

 こちらは単行本ではなく,日経コンピュータ向けの6ページの寄稿記事である。6ページという長さはピンと来にくいかもしれないが,一晩徹夜すれば書けるという長さではない。しかも今回の記事は,本格的にBABOKを日本で紹介する解説としては,ほぼ初めてに近いものだった。かつ,依頼から掲載まで3カ月弱とやはりタイトなスケジュールでのお願いだった。

 それでも執筆者の選定から分担・執筆まで,非常にスムーズに進んだ。実際に執筆に当たった3人のメンバーをはじめ,IIBA日本支部設立準備室の人たちに「BABOKを多くのIT関係者に知ってほしい。それを経営を支えるITの実現に役立ててほしい」との思いがあったからだ。原稿をまとめ上げる過程でそれなりの苦労があったものの,結果的によい解説記事としてまとまったと思う。その結果は,日経コンピュータ2008年12月1日号をご覧いただきたい。年内にIIBA日本支部が正式に立ち上がる予定という。

 金融危機がいっそう景気後退を加速させ,IT業界の先行きも不安定な要素が多い。こういうときだからこそボランティア精神に基づく優秀な人たちが組織の壁を越えて力を合わせる必要があると思う。

 ITGI-JやIIBA日本支部(設立準備室)の人たち,そのほかエンタープライズ分野で進行中の数々のコミュニティ活動が,きっと企業が景気後退の荒波を乗り越えるためのIT活用につながるに違いない。青くさい見方だと言われそうだが,筆者はこう信じている。Webや雑誌,書籍による情報発信やセミナーの開催など微々たるものではあるが,こうした活動に協力していきたいと考えている。

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