第1回の「総トラフィックは約880Gビット/秒,3年間で約2倍に」では,ここ数年の日本のインターネット・トラフィック量の変遷を概観した。今回は増加を続けるトラフィックの内容について,詳しく見ていこう。数年前にWinnyをはじめとするP2Pファイル共有ソフトの利用が流行し,日本のインターネット・トラフィックが爆発的に増加したことを覚えている人も多いだろう。2003年ころのあるISP(インターネット・サービス・プロバイダ)のデータを参照すると「総トラフィックの約75%をP2Pトラフィックが占めていた」(総務省総合通信基盤局 電気通信事業部データ通信課の大西公一郎課長補佐)例もあるという。
現在でもP2Pがインターネット・トラフィックの多くを占めている点は変わっていない。日本インターネットプロバイダー協会が公開しているデータ(参考資料)によると,ある大手ISPでは2008年4月時点でダウンロード・トラフィックの47%,アップロード・トラフィックの76%をP2Pアプリケーションが占めていたという。アプリケーションの種類としては,BitTrrent,Share,WinnyといったP2Pファイル共有ソフトが大きな割合を占める。
また,日本の複数の研究者が国内トラフィックの状況を分析した論文(参考資料)を参照すると,ある1社のISPのトラフィック総量のうち,2008年にTCPの動的ポートのトラフィックが占めている割合は約78%に達する。「このうちの多くはP2Pアプリケーションのトラフィックと推測できる」(インターネットイニシアティブの長健二朗主幹研究員)。
P2Pトラフィックを制限しても問題のすべては解決できない
こうした背景から,一部のISPではP2Pアプリケーションの帯域制御を実施している(図1)。しかし最近では,帯域制御の効果は大きくても,P2Pアプリケーションを制御すればトラフィック増大の問題がすべて解決するわけではなくなってきている。大きな理由は二つ。(1)最近では数年前に比べてP2Pファイル共有ソフトによるトラフィック爆発が沈静化してきたため,(2)動画など,P2P以外の仕組みを使った流通コンテンツがリッチ化の一途をたどっているため――である。
まず,「P2Pのトラフィックは2004年ころに急速な伸びを見せたが,ここ数年間,増加量は落ち着いている。P2Pトラフィック量は増えているものの,全トラフィックに占める割合はむしろ減ってきた」(長氏)傾向にある。実際にKDDIが2005年1月から2008年5月にかけて同社のPOI(point of interface)のトラフィックを観測したところ,アップロード・トラフィックではP2Pアプリケーションがやや増加していたものの,ダウンロード・トラフィックではP2Pの割合は横ばいで,トラフィック総量に対する割合は減少していたという(図2)。