ここ数年,日本のインターネット・トラフィックは増加の一途をたどっている。総務省が国内の通信事業者6社の協力に基づいて公開している「我が国のインターネットにおけるトラヒック総量の把握」によると,2008年5月の時点で,日本のブロードバンド・ユーザーのダウンロード・トラフィック総量は879.6Gビット/秒,アップロード・トラフィック総量は631.5Gビット/秒に達した(いずれも推定値,図1)。「ここ3年間で,約2倍になった計算だ」(総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 データ通信課の大西公一郎課長補佐)という。
数字だけではピンと来ないかもしれないので,光メディアに換算して考えてみよう。ダウンロード・トラフィック総量879.6Gビット/秒を記憶容量700MバイトのCD-ROMに換算すると約1257枚,8.5Gバイトの片面2層DVD-Rでは約103枚のデータが1秒ごとにダウンロードされていることになる。
トラフィック増加の背景には,これまで日本のブロードバンド・ユーザー数そのものが増えてきた点が上げられる。総務省の統計「ブロードバンドサービスの契約数等」によると,2008年3月末時点の国内ブロードバンド・ユーザー数は2875万件。3年前に比較して約1.4倍になった。
ユーザー数増加だけが背景なら,いずれブロードバンドが普及しきればトラフィックの伸びも鈍化しそうだ。しかし,実際にはユーザー1人当たりのトラフィック消費量も増加している。リッチ・コンテンツの流通が増えるなど,ユーザーのインターネット利用スタイルに質的な変化が起きているためだ。総務省の概算によると,2008年5月時点で1ブロードバンド・ユーザー(1ブロードバンド契約)当たりの消費量はダウンロードが30.3kビット/秒,アップロードが21.7kビット/秒。こちらも3年前と比較して,約1.4倍になった計算である。
「伸び率は一定」なのに問題視されるのはなぜ?
このように急増するトラフィックは,ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)にとってはコスト増につながる。ブロードバンド接続サービスはベスト・エフォートが基本とはいえ,ある程度はスムーズな接続を維持することが求められる。ISPはトラフィック増加に合わせて,バックボーン回線やネットワーク機器などの設備を増強しなければならない。
ただし,「長期的な視点で見た場合,ここ2~3年のトラフィックの伸びはむしろ安定している」(インターネットイニシアティブの長健二朗主幹研究員)との指摘もある。図2は2000年から2008年までの,日本の主要IXにおけるトラフィック総量の変化を表したグラフだ。これを見ると,トラフィック総量は増えてはいるものの,2005年以降の伸び率はそれ以前よりも低めの数字で推移している。このように安定した数字が続けば,ISPとっては予測に基づいて定期的に一定の設備増強を繰り返し,トラフィック増加に対処するのは難しくなさそうにも見える。
ところが,現実には一部のISPから「今後数年でトラフィックの爆発により,値上げや従量課金制の導入といった料金体系の見直しなどを考えていかなければ経営が立ち行かなくなるのではないか」といった声が聞こえてきている。こうした声が上がるのはなぜなのか。背景には,インターネット・トラフィックのさらなる質的変化,バックボーン技術の課題,今後予測されるブロードバンド接続サービスのユーザー数の伸びの鈍化,日本のISPが抱える構造上の課題など,様々な理由がある。次回以降,これらの課題を順に見ていく。