ITエンジニアは主に論理的思考で仕事を進め,デザイナーは主に感性で仕事をするという印象がある。以前に流行った言い回しでは,ITエンジニアは主に左脳で,デザイナーは主に右脳で業務をこなすということになるのだろうか。両者は相補的と言えば聞こえが良いが,相容れないと言えなくもない。

 マイクロソフトが2008年10月10日,六本木アカデミーヒルズでカンファレンス「MIX essentials.“Silverlight Day”」を開催したときのことである(関連記事)。マイクロソフト執行役デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の大場章弘氏は,ノーネクタイで講演の壇上に立った。さらに,マイクロソフトの人たちだけでなく,事例紹介パートで登壇したユーザー企業の人たちもすべてノーネクタイだった。

 大場氏は,今日はノーネクタイにするようにと言われていたので家を出るときに服選びで困った,といった旨のことを話していたので,ほかの人たちがノーネクタイだったのも意図的だったのだろう。マイクロソフトはなぜこのカンファレンスで,ノーネクタイにこだわったのか。

 これは推測だが,マイクロソフトはこのカンファレンスで,RIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)基盤の「Silverlight」を“ラフな服装を好む人たち”すなわちデザイナーにアピールしたかったからではないかと思う。マイクロソフトはSilverlightで新しいユーザー・エクスペリエンスを実現するとしているが,それにはデザイナーの参加が不可欠だ。そこでまず形から,というわけでもないだろうが,デザイナーに受け入れられそうなラフな格好をしたのではないかと思う。

 実際,アドビシステムズが開催するカンファレンス「Adobe MAX」はデザイナーの参加者が多いせいか,ITエンジニアの参加者が多数を占めるマイクロソフトのカンファレンスとはかなり雰囲気が違う。ITエンジニアとデザイナーとは住む世界が違うのではないかと思えるほどだ。

ITエンジニアがデザインをするのは無理なのか

 とは言うものの最近は,RIAに限らずWeb制作の現場で,ITエンジニアとデザイナーが共同で作業をする場面が多い。そこで,ITエンジニアとデザイナーのコミュニケーションの問題が発生する。

 この問題の解決に関しては様々なアプローチが考えられる。例えば,ITproに連載していた「コラボレーションから始めよう!」の著者は,「プログラマがデザイナーに歩み寄ることを阻むデザインセンスという『壁』」の存在を指摘し,「プログラマがデザインセンスやセールス・プロモーションのノウハウを身に付けるよりも,デザイナーが技術を身に付けて80歩進み,プログラマには20歩進んでもらって握手するほうが合理的だ」(関連記事)とする。

 デザイナーが,文法やクラスやメソッドを覚えたとしても,すぐにプログラムを書くことはできない。だが,プログラミングを独習し続けることはできる。プログラムには「正確な動作」という最低の基準があるからだ。計算結果が誤っていたり,入力した情報が登録されなかったら,最低の基準もクリアできていないことは一目瞭然だ。ところが,プログラマがレイアウトや配色や色彩心理の知識を得ても,独習を継続するのは大変だ。デザインの世界では最低の基準すら不明確で,評価するモノサシもないからだ。(「コラボレーションから始めよう! 第9回 デザイナーがプログラマに歩み寄るべき理由(わけ)」より引用)

 ただ当然であるが,ITエンジニア(プログラマ)は,デザイナーの歩み寄りを待っているだけではいけない。ITエンジニアがレイアウトや配色や色彩の知識を身に付けることは,やはり有用だろう。デザイナーがすべてのページを隅から隅までデザインしてくれるとは限らないし,サイト公開後の細かい修正をITエンジニアが担当する場合もあるからだ。ITエンジニアにデザインの知識があれば,少なくとも,とんでもないデザインのページになることは避けられるかもしれない。

 例えば,2008年9月4~5日に開催した開発者向けカンファレンス「XDev 2008」のパネルディスカッション「こうすればうまくいく!? デザイナー vs. エンジニア」のパネラーの方々は,「デザインにはちゃんとした理屈がある」といった指摘をしている。デザインというとセンスだけのものと思われがちだが,理屈を知っているのと知らないのとでは全然違うというわけだ。

 また,ITproで連載している「Webデザイン エンジニアリング」の著者は,「色コンプレックスを克服する方法」という記事で

 「色」は誰にでもわかりやすい情報だからこそ,気後れしたり,妙なコンプレックスを持ったりしやすいものです。でも,避けていてはいつまでたっても変わりません。ご自分でも,クライアントにでも,少しでも色に触れる機会を増やせば,色への理解が深まると思います。
と,トレーニング経験の重要性を指摘する。デザインに苦手意識を持っている人は今からでも,知識の習得とトレーニングで改善を図ってみてはいかがだろうか。また,ITproの書籍「ITエンジニアのためのWebデザイン」が少しでもお役に立てば幸いである。