[データモデル編]ではこれまで,発注者と開発者でデータモデルの全体像を共有するためのコツや,扱う情報の範囲を確認するコツを紹介してきました。これらはデータモデルの大きな視点,概要レベルのコツでした。今回は,ER図に記述されたデータモデルの詳細,つまり少々こみいったエンティティの関連を,発注者と開発者で効率的にレビューするためのコツを紹介しましょう。
いきなりER図中心のレビューは難しい
開発者にとっては,ER図は一般的です。しかし,前回や前々回に紹介した方法で,いくら発注者と開発者間でデータモデルの全体像やシステムが扱う情報の範囲を共有できていたとしても,いきなりER図中心のレビューというのはちょっと難しいように思えませんか?
実際,「そのままのER図」をレビュー用の資料に使うべきかどうか---。これは,発注者が普段ER図をあまり目にしていないことを考えると,かなり悩ましいところです(ほとんどの場合,発注者からはいやがられるでしょう)。だからといって,ER図以外に別の資料を用意するのは手間がかかりますし,そんなに良い資料がそうそうあるとも思えません。
画面レイアウトをER図のレビューに活用する
そこで,お薦めしたいのが,画面関連の設計書である画面レイアウト(第5回参照)を,ER図のレビューに活用する方法です。具体的には,レビューの場に画面レイアウトを用意して,画面レイアウトと対応付けながらER図を説明します(図1)。
画面レイアウトは,発注者にとっては理解しやすいドキュメントの部類です。発注者にとっては非常に理解しやすいドキュメントです。既存システムの画面の操作経験から,操作イメージを思い浮かべやすいからです。画面から入出力するデータに関しても,画面レイアウトを見ることで比較的容易に推測できます。これを,ER図の理解に役立ててもらうのです。
エンティティの関係を理解しやすくなる
図1の例では,画面上の「受注見出し」にある「受注区分」のプルダウンは,ER図の「受注見出し」エンティティと「受注区分」エンティティに対応しています。また,画面レイアウトの「受注見出し」と「受注明細」(ひとつの受注見出しに対して明細は複数行)は,ER図の「受注見出し」エンティティと「受注明細」エンティティに対応しています。
こんな説明をしながら,発注者にER図を確認してもらいます。発注者は,データモデリングの用語は知らなくても,業務知識や画面の操作経験があります。この知識と経験を,ER図の理解に生かしてもらうわけです。
図1の例で言えば,画面の操作イメージと業務知識から,発注者は「受注見出し」と「受注明細」間のエンティティが1対多の「親子関係」になっていることが理解できるでしょう。「受注明細」エンティティの識別子である「受注番号」についても,「受注明細」を特定できる情報として,容易に理解できるはずです。
また,「受注見出し」にある「受注区分」のプルダウンメニューから選択して入力するという操作イメージから,「受注区分」エンティティと「受注見出し」エンティティが「参照関係」にあることが,用語で説明しなくても発注者に理解してもらえるはずです。
以上は簡単な例ですが,もっと複雑なエンティティの関係も,実際の業務につながる画面操作イメージがあれば理解しやすくなります。
ER図の見直しにつながる
この方法は,RFPや要求定義書から開発者がトップダウン的に分析・設計したデータモデルの実現性を,画面レイアウトを通してボトムアップ的に確認できる効果もあります。さらに,発注者が画面の操作イメージや業務経験に基づいてER図をチェックすることで,ER図の正規化や識別子などの見直しにつながる可能性もあります。
画面レイアウトと対応付けたER図のレビューを実施していると,発注者がER図に慣れてくるかもしれません。そうなったらしめたものです。以後のデータモデルのレビューが格段にスムーズになります。
もちろん,すべてのER図を,画面レイアウトと対応付けてレビューする必要はありません。データモデル全体をながめて,重要と考えられる部分のER図には,ぜひこの方法を適用してみてください。
今回のコツ
(発注者ビューガイドラインのコツID:MR3003)
この記事は,実践的アプローチに基づく要求仕様の発注者ビュー検討会が2008年に作成・公開した「発注者ビューガイドライン」を参考に作成されています。実践的アプローチに基づく要求仕様の発注者ビュー検討会には,NTTデータ,富士通,NEC,日立製作所,構造計画研究所,東芝ソリューション,日本ユニシス,沖電気工業,TISが参加していました。実践的アプローチに基づく要求仕様の発注者ビュー検討会については,こちらをご覧ください。なお,現在はIPA(情報処理推進機構)のソフトウェア・エンジニアリング・センターに移管されています。 |