デジタル放送推進協会(Dpa)に運営を委託した総務省の「受信者支援センター」が,2008年10月1日に始動した。地上アナログ放送の完全デジタル移行に向けて,テレビ受信者を支援するプロジェクトである。これと相前後して在京AMラジオ放送事業者3社が,地上デジタルラジオの実用化試験放送において,各社のAMラジオのサイマル放送を開始した。今回から2回にわたって,地上アナログ放送の跡地を利用した新たな放送事業について考えてみる。


 ラジオ放送業界では大きなイベントである「デジタルラジオ全国連絡協議会」の第1回総会が,10月21日に開かれる。総務省の「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」が2008年7月にまとめた報告書に基づき,地上デジタルラジオの本放送化に向けた地上アナログ放送跡地での帯域確保と,その事業計画を立案するための全国的な推進組織という位置付けである。


AMラジオ事業者を中心に構築されつつあるデジタルラジオの将来像

 この報告書をひも解くと,マルチメディア放送サービスは三つのタイプに分けられるという。「国際競争力強化」や「産業振興」,「放送・通信の融合型サービス実現」などを理念とする有料放送が中心の「全国向け放送」(タイプ1),「地域振興」や「ローカル情報確保」などを理念とする無料放送と有料放送の両方が想定され得る「地方ブロック向け放送」(タイプ2),そしてタイプ2のうち,放送エリアなどが今後の議論の中心となるであろう無料放送中心の「新型コミュニティー放送」(タイプ3)である。タイプ3は,現在のコミュニティーFM放送のデジタル化を想定したもので,実現の優先順位は高くないもようである。

 タイプ2が、現在のラジオ放送のデジタル化を前提としたものであり,割り当て周波数もVHF帯のローバンド(90M~108MHz,現在のテレビ放送の第1チャンネルから第3チャンネル)を前提にしている。現在の地上デジタルラジオ放送はVHF帯の第7チャンネルを使って実施されているが,このチャンネルを含むVHF帯のハイバンドは,タイプ1の全国向け放送に割り当てることが適当とされた(全国向け放送ついては次回で触れる)。

 つまり,現在デジタルラジオ推進協会(DRP)が実用化試験放送として行っている地上デジタルラジオ受信用の携帯電話機などの受信機は,2011年7月以降は使用できないことになる。このような条件下で現行放送のサイマルキャストに踏み切った在京AMラジオ事業者(前回の記事)には詰まるところ,「ラジオ放送としてのブランド認知が継続的に行われなければ,タイプ2の地域ブロック向け放送が全国向け放送に埋没,あるいは飲み込まれてしまう」といった危機意識が働いたと感じられる。


既存ラジオの無料放送モデルを引き継ぐ地方ブロック向け放送

 また、地方の区域分けや地区によって事業参入の度合いが異なるという複雑な事情があり,ダウンロード型といった有料放送番組モデルよりも既存の放送の媒体力を維持する自信があるラジオ放送事業者のイニシアティブが働いたものと考えられよう。当初,3セグメントの周波数を用いたダウンロード型有料放送番組の開発でDRPの中心的存在だったエフエム東京(FM東京)が,いまだに地上デジタルラジオの実用化試験放送への番組提供を休止していることも,ラジオ業界の混迷の度合いを物語るものといえなくもない。

 地上デジタルラジオ放送が全国各地で立ち上がる予定の2011年あたりの放送関連広告費は,今回の世界金融不安のなかで決して楽観できる環境にはない。また,放送システムを運用する事業者に対する携帯電話事業者の出資に制限がつかないことも,放送事業者(特にラジオ放送事業者)の関与度が低下する危機意識につながるものである。

 タイプ2の放送システムについては,地域ごとに一つの送信システムを持つハード事業者に対して複数のソフト提供者が番組を提供する「ハード・ソフト分離型」の免許制度が導入される方向だ。放送開始から5年以内に,現在のFM放送の普及率と同程度のリスナーを確保するには,「既存のラジオ番組のブランド力を生かすのが最善」との帰結があるのではなかろうか。


佐藤 和俊(さとう かずとし)
放送アナリスト
茨城大学人文学部卒。シンクタンクや衛星放送会社,大手玩具メーカーを経て,放送アナリストとして独立。現在,投資銀行のアドバイザーや放送・通信事業者のコンサルティングを手がける。各種機材の使用体験レポートや評論執筆も多い。