>>前編 

今後の成長分野をどこに求めるのか。

 将来,光回線にはパソコンやテレビだけではなく,冷蔵庫や照明など様々な端末がつながってくる。そうすると単につながるだけではなく,簡単かつ快適に使えるようにすることがユーザーには重要になる。

 具体的には,ネットワークに接続するセットアップ,安心して使えるかどうかの監視,故障したときにはそれを直す,といったサポートが求められる。こうした宅内事業の分野がビジネスとして有望だと見ている。

 逆に,こうした部分を強化しなければ,ネットワークにつないで便利に使うという以前に,ACアダプタやケーブル,リモコンが家の中に氾らんし,ユーザーの生活の快適さが失われる。このようなつまらないことが案外,FTTH普及のネックになる可能性がある。

今後は光回線ユーザーと加入電話ユーザーの数が拮抗してくる。加入電話からの移行パスはどうなるのか。

江部 努(えべ・つとむ)氏
写真:的野 弘路

 2010年度前後には,東西合計で光ユーザーは2000万件。1回線で複数チャンネルを使うユーザーもいるため,ひかり電話の加入件数は2000万を超す規模になる。

 この時点で加入電話のユーザーとほぼ拮抗し,さらにその先も光回線は増えていくので,2010年代にもユーザー数が逆転する時期が来る。ただしその後も,加入電話ユーザーはかなりの先まで残るだろう。

 我々としては,加入電話を使うユーザーがいるのにサービスを停止するという選択肢はない。なので,どういうインフラで加入電話と同等のサービスを提供するのが効率的かを検討する必要がある。メタル回線のままNGNにつなげるのが良いのか,光化した都市部ではメタル回線を撤去してよいのか,様々な要素がある。

 持ち株会社が2010年度時点で展望を示す予定となっているが,この際にはいろいろなやり方がある,という方法論を提示することになるだろう。

固定通信市場での競争では,他社が移動通信と組み合わせた割引で攻勢をかけている。対策はあるか?

 法律上,NTTドコモとの一体営業はできないことになっており,他の事業者に対して,その面の競争力が削がれていることは事実だ。企業向けの大口回線などに大きな影響が出てくれば,総務省に他社と同じ条件で競争できるようお願いすることも考えざるを得ない。ただし今の時点でこれらは単なる割引サービスとしてとらえている。規制があろうとなかろうと,我々が追随することはない。

 グループとして目指すのは,単なる値引きではなくネットワークをシームレスに連携させて,新たな付加価値を創造する本当の意味でのFMC(fixed mobile convergence)サービスの提供だ。

 例えば現状,テレビ会議は固定回線同士で使われているが,移動できる端末から映像を送れるようになれば,より臨場感のある情報を共有できる。移動通信側の端末は携帯電話機に限らず,デジタルカメラ,ビデオカメラなどになってくる可能性もある。

 ビジネスでは流通させる情報量を増やすことで決断を早められる。家庭でもこれまでになかった経験が可能になるだろう。

 料金の割引といった手段に比べれば,本格的なFMCを提供できるまでに時間はかかると思う。それでもどのようなサービスがユーザーにとって有益なのかを検討していきたい。

NTT東日本の事業の中心はもう電話だけではなくなってきている。これからどのような会社を目指すのか。

 かつて電話サービスはそれだけで単一のインフラ,サービスとして成り立っていた。だが,ブロードバンド回線はサービスを利用するための手段に過ぎない。これは大きな違いだ。ただサービス業として我々は,最終的なサービスをユーザーに提供する会社でありたい。ネットワークを快適に使うためのサポートや,アプリケーション・サービスなど,いろいろな形でユーザーとの接点を持ち続けなくてはならないと考えている。

 そのうえで,財務面でも増収に持って行かなくてはならない。設備事業は将来のユーザーを見据えて投資するもの。光回線もユーザー数が増えれば,1ユーザー当たりに必要な投資も下がっていく。電話事業の収入が下がっても,その変曲点は必ずやってくる。簡単ではないが,実現は可能だ。

NTT東日本 社長
江部 努(えべ・つとむ)氏
1947年生まれ。神奈川県出身。70年に一橋大学経済学部を卒業し,日本電信電話公社に入社。2002年にNTT西日本常務・経営企画部長,2003年同副社長・ブロードバンド推進本部長などを歴任。2007年6月にNTT持ち株会社の代表取締役副社長,中期経営戦略推進室長として2010年代のNTTグループの事業戦略を描いてきた。2008年6月に現職のNTT東日本代表取締役社長に就任した。趣味はスポーツ観戦。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年7月14日)