NGN(次世代ネットワーク)の商用サービス開始から3カ月以上が経過した。これまでの光回線の販売状況はどうか。

 2008年4月から6月までの第1四半期は,前年度とほぼ同等の水準で推移した。純増数で月間15万件前後といったところでおおむね順調だ。

 だが本来であればもう一段階,上を目指したい。これには,NGNの展開が関係してくる。NGNは9月までに東京23区をカバーし,秋にかけて首都圏近郊や地方の県庁所在地まで拡張する。そのあたりから加入者獲得ペースを上昇気流に乗せていきたい。

 NGN対応のフレッツ 光ネクストの提供エリアは予定通り拡大しており,今後はかなり速いテンポで広がっていく。グループ目標では「2010年度に今のBフレッツと同等のエリアをカバーする」としている。これに対して,NTT東日本は2009年度中にBフレッツ提供エリアの4分の3程度までカバーする計画だ。エリア拡大はできるだけ前倒しでやっていきたい。

NGNは商用サービスが始まったものの,まだ存在感が薄い。もっとインパクトを持って登場すると期待していたのだが。

江部 努(えべ・つとむ) 氏
写真:的野 弘路

 米アップルのiPhoneなどの端末とは異なり,NGNはネットワークそのものが何かのサービスや機能として使えるわけではない。ユーザーや事業者の要望によって様々な性格で使えるといった性能を備えている。

 こうした事情からNGN網そのもののメリットを直接的にユーザーに訴えることは難しい。しかもネットワーク・サービスであるため,ある程度は面的にカバーできないと,本来の性能が発揮できないという問題もある。

 我々にも,当面はNGNがきちんと動くかを検証しながら,運用や保守を習熟させようという意図があった。安定した体制ができてから,自信を持ってエリアを広げようと考えたのだ。

 このため3月末のサービス開始時点では,大々的なプロモーションを行なわずに“スモールスタート”を切った。少し期待を裏切ったかな,という思いはある。だが,派手なアピールよりも,地道にしっかり進めていくのがNTTらしさと言えるのではないだろうか。

今後,NGNの魅力をどうユーザーに訴えていくのか。

 パソコンやテレビを光回線につないで,映像などのリッチなコンテンツを楽しんでもらう取り組みは,当然のこととして進めていく。

 それ以外にも,体脂肪計や血圧計,ホームセキュリティ用のカメラといったこれまでにない端末がつながるようになる。これに相まってユーザー数やエリアが拡大していけば,今までに思い付かなかった形で光回線を活用する例が出てくるだろう。

 例えば,ICT技術の活用で物や人の移動を少なくし,二酸化炭素の排出量削減に役立てるといったビジネスの可能性がある。医療分野でも,込み合った病院にお年寄りが通わなくても済むように,日常的な健康管理に光回線を活用できる。こういった社会インフラとしての役割を担うようにしたい。

 ただ,この方向を発展させていくには,NTTグループの考えだけでは限界がある。NGN上で様々なプレーヤがビジネスを展開できるような環境を整備することが重要だ。

従来,映像配信サービスがNGNの需要をけん引するとしてきたが,懐疑的な意見もある。

 今後2~3年間は,アナログ地上波放送の停波に向けて,家庭のテレビが新しいものに置き換わっていく。これに対して光回線をつなげるという付加価値を訴求し,新たなユーザーを獲得したい。

 確かに,地上デジタル放送を視聴する手段は光ファイバだけに限らない。もともとアンテナとチューナーさえあれば無料で視聴できる。だから放送サービスで,光ファイバが圧倒的なシェアを取ることはないだろう。

 とは言っても,固定電話と同様,各家庭にテレビは行きわたっており,市場規模は大きい。その中の1割でも2割でも光回線につないでもらえれば,かなりのボリュームになる。

 さらに放送サービスに限らず,インターネット上で流通するコンテンツも高画質な映像にシフトしてきている。現在は,FTTHユーザーとほぼ同数のADSLユーザーが残っているが,映像を快適に楽しみたいというニーズが盛り上がれば,これらの層がFTTHに移行する流れもまだまだ期待できる。

>>後編 

NTT東日本 社長
江部 努(えべ・つとむ)氏
1947年生まれ。神奈川県出身。70年に一橋大学経済学部を卒業し,日本電信電話公社に入社。2002年にNTT西日本常務・経営企画部長,2003年同副社長・ブロードバンド推進本部長などを歴任。2007年6月にNTT持ち株会社の代表取締役副社長,中期経営戦略推進室長として2010年代のNTTグループの事業戦略を描いてきた。2008年6月に現職のNTT東日本代表取締役社長に就任した。趣味はスポーツ観戦。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年7月14日)