今回はインターネットオークションのサービス利用者が,同サービスを提供しているヤフーに対し,詐欺の被害を生じさせないインターネットオークションのシステムを構築すべき注意義務を怠ったとして,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めた事案の判決(注1)を題材に,インターネット上のサービス提供者がシステムを構築する際の注意点について検討したいと思います。

請求棄却するもサービス提供者の義務を認める

 同事案は,ヤフーの提供するインターネットオークションのサイト(Yahoo!オークション)で詐欺被害にあったサービス利用者780人が,ヤフーに対し,債務不履行並びに不法行為及び使用者責任に基づき,総額1億5800万円の損害賠償金を請求した事件です。これらの被害者は,同サイトで商品を落札し,その代金を支払ったにもかかわらず,商品の提供を受けられない被害にあったとしています。

 結論としては,2008年3月28日の名古屋地方裁判所の判決で,原告の請求は棄却されました。ただし抽象論としては,サービス提供者側に対して欠陥のないシステムを構築して本件サービスを提供すべき義務を認めており,要注意の判決だと思われます。

 本事案のようなインターネットオークションのサービスが典型ですが,インターネットの電子商取引のサービスでは,取引はユーザーが直接行い,サービスの提供者は「場」を提供しているに過ぎない場合が,比較的多く存在します。例えば,電子商店街(サイバーモール),ホスティングサービスの提供者などです。他方,その「場」を悪用しようとする人も当然出てきます。その場合,「場」の提供者であるサービス事業者にどのような責任が発生するのか,あるいはしないのかということが問題になります。

 本事件の争点は,以下の4点に整理されます。

  1. 被告ヤフーの注意義務の有無及びその内容
  2. 被告ヤフーの義務違反の有無
  3. 原告らの損害の有無及びその額
  4. 被告ヤフーの免責

 中心的な争点は「1.被告の注意義務の有無及びその内容」です。この点について本事件の原告であるオークションサービスの利用者は,利用者とヤフーの間の契約は,出品者と落札者との間の売買契約の成立を目的とし,利用料を徴収している以上,被告(ヤフー)は利用者に対して,本件サービスを瑕疵(かし)のないかたちで提供する義務があると主張しています。

 このような義務が発生する根拠として,原告は,ヤフーと本件サービスの利用者との間には仲立契約に類似する契約が成立しており,ヤフーは善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)を負うと主張しています。そして,ヤフーが負っている注意義務については,以下のように主張しています。

(ア)注意喚起
詐欺被害防止に向けた注意喚起を十分に行わなければならない。
(イ)信頼性評価システム
被告は,第三者機関による信頼性評価システムを導入して,詐欺被害を防止しなければならない。
(ウ)出品者情報の提供・開示
利用者に出品者情報を提供・開示し,匿名性を排除することで,詐欺被害を防止しなければならない。
(エ)エスクローサービス
被告は,比較的容易かつ確実に詐欺被害を防止することができるエスクローサービスの利用を義務付けなければならない。
(オ)補償制度
補償制度が設けられていない。

 これら原告の主張に対して,ヤフー側は以下のように反論しています。

本件サービスは,利用者に自己の判断によって自由に商品売買を行う機会を提供することを中核としており,被告は取引の「きっかけ」を提供する「場の提供者」であって,本件サービスをきっかけとして行われる売買は,売主(出品者)と買主(落札者)の自己責任で行われるものである。取引の場の提供者に過ぎない被告は,利用者間の個別の取引の成立や履行に関与することはなく,対価を支払ったにもかかわらず商品が届けられなかった詐欺被害も含め,個別の取引に起因する利用者間のトラブルについて,契約上及び不法行為上の責任を負うことはない。

 つまり,「あくまでも場の提供者である」ことを,責任を負わない根拠としています。ヤフーと利用者の間には,利用規約とオークションガイドラインを契約内容とする利用契約が成立している(仲立契約類似の契約ではない),オークションガイドラインにおいてヤフーは利用者に取引の「きっかけ」を提供する「場の提供者」であり,本件サービスをきっかけとして行われる取引が「売主(出品者)と買主(落札者)の自己責任によって行われる」ことが盛り込まれている(注2),さらに経済産業省の「電子商取引等に関する準則」でも同ガイドラインと同様の理解が示されている,などの理由に基づき自己の責任を否定しています。

 なお,オークションガイドラインの関係では,争点「4.被告ヤフーの免責」として,同ガイドライン中の免責条項によりヤフーが免責されるのかどうかが問題となっています。

 本件事案の争点は大きく分けると,場の提供者が利用者に対して損害防止の義務を負うのかどうか,また,場の提供者が設定した利用規約等の効力はどこまで認められるのか,ということになります。これはインターネットオークション特有の問題ではありません。特に利用規約等の問題は,インターネット上のサービスに関して一般性を持つ問題であり,他の事業者の参考になる部分でもあります。また,被告は「電子商取引等に関する準則」を引用する形で主張しており,準則を裁判所がどのように扱っているかも興味のあるところです。

 次回は,このような争点に対する裁判所の判断について検討します。

(注1)平成20年03月28日名古屋地裁判決
(注2)ガイドラインには,次のような内容が盛り込まれていたと認定されています。
1.本件サービスが利用者に取引の「きっかけ」を提供するものであること
2.実際に売買を行うかどうかは,利用者の責任で行われること
3.被告が利用者から提供される個々の商品や情報を選別,調査,管理しないこと
4.本件サービスの利用は,利用者各自の自主性,自立性に委ねられており,一般の取引と変わらないこと
5.成約,商品の送付,受領の手配等の協議は利用者間で行い,利用者が責任をもって履行するもので,被告が本件サービスの利用をきっかけにして成立した売買の解除・解約や返品・返金等には一切関与しないこと
6.利用者間でトラブルが生じても,被告が解決に当たることはない

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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。