2008年5月21日に都内で開催された「行財政改革シンポジウム2008」より、岐阜県各務原市都市戦略部財政課長の小鍋泰弘氏による講演「各務原市における新地方公会計制度への取り組みについて」の概要をお届けする。(構成:清浦秀人=フリーライター、写真:垂井良夫)
2006年6月に夕張市が財政再建団体になったことで、市場や国民のみなさんから「自治体の財政状況はどうなっているのか」との声が上がり、地方債と国債のスプレッド(利息の差)が大きく開きました。「地方債はリスクウエイトゼロで、ソブリン債(国債など各国政府によって発行された債券)並みでデフォルト(債務不履行)はしません」と説明しても、スプレッドは開いてしまった。セーフティーネットの必要性を痛感しました。つまり、各務原市自体は縁故債しか借りていませんでしたが、IR活動が必要なのではないかと考えたのです。その一つのツールが新地方公会計制度への取り組みであります。
私は、財政課の仕事で最も重要なものの一つが資金調達だと思っています。利息を0.1%変えるだけでも、場合によっては2億円、3億円の違いが出てきます。例えば予算を組むときに「学校のプロジェクターを何台買い換える」といった議論も必要ですが、たかだか0.1%の利息の違いでプロジェクター1000台くらいが買えるのです。財政課の職員はそうした認識を持たなくてはいけないのではないでしょうか。
2001年度の財投改革以前は、どの団体でも何年借りても同じ利息でした。しかし、これは金融の世界から見るとおかしい、ということになります。ある金融関係者は「今までは財政資金並みにお貸しできましたが、これからは財政力のよい団体と悪い団体について、同じ利息で貸すのはちょっと難しいかもしれません」という話をされていました。ですから我々はこれまで以上にきちんと財政状況を説明する必要があると思っています。財政力が悪い団体であろうが、よい団体であろうが、そこに差を設けてはいけないというのは、我々が、地方債はデフォルトしないという考え方の大前提ですので、その差を出さないためにも、きちんと地方公共団体が一生懸命になってIR活動というのをしていかなければいけない。新地方公会計制度はまさにそのツールである――そういうふうに考えているところです。
新地方公会計制度は「単式簿記の否定」ではない
どうも、新地方公会計制度と聞くだけで「敷居が高い」と思われる方が多いようです。これは個人的な考えですが、一つ言えるのは、新地方公会計制度は現行の単式簿記を否定するものではないということです。単式簿記の重要性というのを我々は忘れてはいけないと思っています。つまり、議会での承認を得て「きちんと執行してください」と言われた金額は、きちんと執行しないといけない。それを見ていくのに単式簿記は適しているということです。
また、当然ですが行政には行政のやり方があります。赤字でも遂行しなければならない泥臭い仕事はたくさんある。同じような会計のツールを使ってはいますが、出来上がったものは行政と民間とでは全く違います。ですから、新地方公会計制度は、行政が民間の世界に入っていくということではなく、民間で行われている会計基準に基づいた行政の新しい世界を作ろうとしている、ということなのです。今までの反省として、実質公債費比率や起債制限比率など、行政の専門家でしか分からないところであぐらをかくのではなく、民間にも分かりやすい会計ツールを使って行政の世界を作っていくのが、これからの公会計なのだと思います。単式簿記と複式簿記は相容れないものではなく、車の両輪のようなものではないでしょうか。
【編集部注】各務原市では、総務省の「基準モデル」に対応した財務会計システムを導入して、新地方公会計制度に取り組んでいます。3月には基準モデルでの新公会計制度に基づく財務4表も公開しました。システム導入に関連しては、こちらの記事をご参照ください。
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