平能 哲也
広報/危機管理コンサルタント

 前回は、「社内」に対するクライシス・コミュニケーション活動の留意点について説明した。今回は「社外」に対するクライシス・コミュニケーション活動の留意点について述べる。

 社外に対する活動とは、社外の各ステークホルダー(利害関係者)に向けての活動やメッセージの発信である。ステークホルダーの中でも、特に危機発生直後に深く関係するのは、(地元)行政機関、メディア(報道機関)、顧客(企業などの組織)、一般消費者、および、地域住民であろう。これらのステークホルダー別の対応について、コミュニケーション活動を中心に考えてみたい。

 危機が発生した後の、社外への情報の流れと、それに伴う活動の内容は、通常、次のようになる(図1)。以下では「工場事故のケース」を想定危機とし、(1)~(5)の各項目の内容を、時間軸に沿って説明していこう。なお、前回取り上げた「不祥事、不正行為のケース」も、対応ポイントは同様である。


図1●社外への情報の流れと、それに伴う活動の内容
図1●社外への情報の流れと、それに伴う活動の内容

(1) 危機の発生
 社内で危機が発生する。ここでは危機の内容を「工場での爆発事故、火災事故」と想定する。

(2) 地元の行政機関への対応
 工場事故の場合は、けが人の発生の可能性が高く、社内からの事故の第一報を受けて、安全管理担当部門などが、地元消防に救急車の出動を依頼することになる。その際に聞かれる内容は、後述のメディア対応でも同様だが、主に以下のような事故情報である。

 ・事故の発生場所
 ・事故の発生時間
 ・事故の概要と原因
 ・けが人の有無
 ・二次災害や地域住民避難勧告の可能性の有無

 その後はスタッフが工場の守衛所で待機し、到着した救急車を事故現場付近まで誘導し、搬送されたけが人に付き添って病院で待機する。さらに警察や労働基準監督署など関連する行政機関へも一報する。なお、けが人が発生した場合は、けが人の家族への連絡と、その後の対応が当然必要となる。

(3) メディアへの対応

 事故直後に中心となるのはやはりメディア対応である。工場の所在地や現地の記者クラブの状況によって若干異なるとは思うが、事故直後の対応では(a)電話での問い合わせ対応、(b)現場での取材対応となる。

 (a)、(b)で聞かれることは、前述の行政機関と同様で、事故の事実関係に尽きる。メディアは締め切りに追われているため、事故の概要や、想定される事故の原因などの事実関係について、“結論を急がせる”傾向が強い。

 しかしながら、事故直後に事故の概要を正確に把握することは不可能といってよい。つまり企業側は、情報が少ないなかで様々な情報提供をメディアから求められる、のである。

 クライシス・コミュニケーションの観点では、この段階でメディアと企業の広報担当の間でトラブルが発生するリスクが高まる。事故発生という緊急時のなかで、両者が一種の興奮状態にあり、言葉遣いも乱暴になりやすい。

 企業の広報担当として行うべきポイントはいろいろとあるが、重要な点を二つだけ挙げよう。

 一つは、その時点で「分かっていること」と「分かっていないこと」をまず整理する。「分かっていること」はできるだけ分かりやすく丁寧に説明し、「分かっていないこと」は「現時点では調査中で分かりません」と伝えることである。

 最も注意すべきは、メディア側の性急な情報提供要求に押されて、「多分こういうことかと思われます」といった「不明な点を推測で話す」ことである。後で事実関係が間違っていたときに、「意図的に嘘をついた」ととらえられるリスクもあり、クライシス・コミュニケーション上、絶対にやってはいけない対応である。

 もう一つは、難しいことだが「冷静な対応を心がける」に尽きる。メディア記者の厳しい言い方に反応して、「売り言葉に買い言葉」になることだけは避けなくてはならない。言葉や態度から生まれる感情的なトラブルは、緊急時の異様な雰囲気の中では大きくエスカレートする可能性が高く、その後の取材対応にもマイナスの影響を与える。

 (2)の現場での取材対応では、まず企業の広報担当が守衛所に待機し、来社したメディアを事故現場に案内することが必要となる。メディアとしては、現場写真や映像を撮影することが絶対に必要であり、それに協力することが求められる。もちろん、事故現場から少し離れた安全な場所を確保したうえで、企業の広報担当と現場担当が立ち会う。