平能 哲也
広報/危機管理コンサルタント

 前回は「クライシス・コミュニケーション」の概要と、その役割について説明した。今回からは企業の「クライシス・コミュニケーション」の具体的な活動について述べていきたい。前回にも書いたが、本稿の内容は「企業」を「組織全般」と置き換えても、そのまま当てはまるとお考えいただきたい。

 企業の「クライシス・コミュニケーション」は大きく、「社内に対する活動」と「社外に対する活動」に分けられる。今回は「社内に対する活動」を取り上げる。活動の内容を説明する前に、まず想定危機(リスク)の分類や優先順位の考え方について触れておきたい。

想定危機を4つに分類


 私は危機を、大きく「事件」「事故」「不祥事」「自然災害」の4つの項目に分けることにしている。当然、それぞれの項目は、より詳細に分類することが可能である。

 想定危機は別の観点から、「どの企業にも共通する想定危機」と「企業によって優先順位が異なる想定危機」に分けることができる。

 「どの企業にも共通する想定危機」の代表例としては、自然災害(大地震、大雨・洪水など)、感染症(新型インフルエンザなど)、情報セキュリティ、景気動向の悪化、経営トップから一般社員までの個人的な不祥事、などが挙げられる。これらは、企業の規模の大きさや業務内容などに関係なく、ほぼすべての企業に共通する想定危機である。

 「企業によって優先順位が異なる想定危機」については、企業の以下の要素によって優先順位が異なる。

 ・規模
 ・業種
 ・工場の有無
 ・上場/非上場
 ・外国資本/国内資本
 ・海外展開の有無
 など

 このうち業種について考えてみよう。例えば食品会社であれば、優先順位の高い想定危機として「自社製品に起因する食中毒」「自社製品への異物混入」「自社製品の品質表示の偽装」などがある。製薬会社では「自社製品による副作用での死亡事故」が最も優先順位の高い想定危機であろう。

 機械、化学、鉄鋼などの製造業では、「工場の爆発や火災事故」「自然災害による被害」が優先順位の高い対策項目であるし、金融機関(関連するIT企業も含む)では「ネットワーク障害」などが上位に挙げられる想定危機であろう。

 企業の危機管理対策では、「危機の発生がその企業にもたらす影響度(被害の大きさ)」と「予測される危機の発生頻度」という2つの要素を踏まえて、想定危機に優先順位を付けることが一般的な方法だ。つまり、発生しやすく、いったん発生すると被害の大きい想定危機を洗い出し、まずはそれらの危機に対する対策を構築すべきだという考えである。

危機の発生 ―― 工場事故のケース

 「クライシス・コミュニケーション」のスタートは「危機の発生」である。危機が発生した後の、社内における情報の流れと、それに伴う活動の内容は、通常、次のようになる(図1)。

図1●危機の発生を起点とする、クライシス・コミュニケーションの一般的な流れ
図1●危機の発生を起点とする、クライシス・コミュニケーションの一般的な流れ

 以下では具体的なケースを想定し、(1)~(5)の各項目の内容を、時間軸に沿って説明していこう。

(1) 危機の発生
 社内で危機が発生する。ここでは危機の内容を「工場での爆発事故、火災事故」と想定する。

(2) 社員から上司または事前に決められた部門への第一報
 現場の社員が第一報を、上司または安全管理担当部門へ携帯電話などで伝える。上司や安全管理担当部門がまず確認すべきことは「けが人の有無」であり、最初に指示すべきことは「現場社員の避難」や「二次災害の防止」である。工場事故のケースでは、現場への確認や指示に併せて、消防や警察への一報を行うのが普通である。

(3) 対策本部の事務局への連絡
 上司や安全管理担当部門は、対策本部の窓口である事務局へ連絡する。事務局は通常、総務部長が兼務することが多いと思われる。

(4) 対策本部員への連絡、召集
 対策本部の事務局は各対策本部員へ、危機発生の第一報と、決められた対策本部会議室への召集を連絡する。工場の対策本部員である工場長(現地=工場対策本部長)と幹部社員のほか、当然ながら本社の対策本部事務局を通じて、本社対策本部員である社長(本社対策本部長)と取締役や執行役員などへも連絡する。この場合、スタッフが手分けして携帯電話で連絡することが考えられるが、事前に携帯の一斉メールを登録しておけば、素早く対策本部員全員に危機発生の第一報を知らせることができる。

(5) 対策本部会議で、情報収集と対応協議
 対策本部会議室に集合した対策本部員は、現場の情報収集のほか、けが人の搬送など優先順位の高い指示を行ったり、今後の対応について協議したりする。

 工場事故を例にとれば、事故発生の第一報から対策本部会議での対応協議までは、だいたい以上のような展開となる。工場勤務の社員たちは、事故の発生を工場内で即座に知ることになる。また、消防や警察への第一報によって、地元の新聞社や通信社、テレビ局といったメディアは危機の発生を知り、工場へ駆けつけることになる。メディアや行政への対応は次回に説明するので、ここでは省略する。