1960 年生まれ,独身フリー・プログラマの生態とは? 日経ソフトウエアの人気連載「フリー・プログラマの華麗な生活」からより抜きの記事をお送りします。2001年上旬の連載開始当初から,2007年に至るまでの生活を振り返って,週2回のペースで公開していく予定です。プログラミングに興味がある人もない人も,フリー・プログラマを目指している人もそうでない人も,“華麗”とはほど遠い,フリー・プログラマの生活をちょっと覗いてみませんか。

 フリー・プログラマには上司がいない。私の場合には部下もいない。 1 日中寝て過ごしても,文句を言う人はだれもいない。まさにナイナ イづくしの結構な生活と思われるかもしれないが,それに甘えていて はお金は入ってこない。世の中はよくできている。

 フリー・プログラマになるのは簡単だ。会社に辞表を出して「今日 から私はフリー・プログラマです」と言えばいい。だが,フリー・プ ログラマとして生きていくことは大変だ。今回は,私を知っている人 から噴飯(ふんぱん)モノと思われることを覚悟で,私がいかに厳し く己を律した生活を送っているか,それをご説明しようと思う。

2時に起きて7時に寝る生活ってドウよ?

 「2 時に起きて7 時ぐらいに寝てます」。日経ソフトウエアの編集者 との最初の打ち合わせでこう言った。話が進むうちに,どうも内容が かみ合わなくなってきたので,私は付け加えた。「あの~,午前2 時に 起きて,午後7 時に寝ているんですけど」。どうやら編集者は昼の2 時 に起き出して,徹夜したあげくに朝の7 時に眠ると思っていたようだ。 冗談じゃない。どっかの怠け大学生じゃあるまいし。

 したがって,仕事の時間はおおよそ,午前2 時から夕方までという ことになる。変な生活サイクルだと思われる人もいるかもしれないが, 実はこれ,なかなかオッケーな生活なのだ。まず,朝早くからの打ち 合わせに何の苦も無く出席できる。それに,インターネットを利用す るときにテレホーダイのラッシュアワーを避けられる。何より,仕事 を始めたとき,つまり一番集中できる時間帯に電話で邪魔されない。

 「そんな生活をしていると,みんなと時間が合わなくて困るでしょ う」と心配してくれる人もいるが,ご心配なく。世の中には昼間に遊 ぼうという人もたくさんいる。遊びが夕方に突入した場合でも,多少 はお付き合いできる。もっとも,池袋の繁華街から歩いて10 分の距 離に住んでいる関係上,仕事を始めてすぐの午前3 時過ぎに「お店終 わったからカラオケいこーよー」という電話がかかって来て,ホイホイ 遊びに行ってしまうことも無いわけではないが。

 ともあれ,「朝までテレビを見ていて,寝ぼけた顔で会社に行く」生 活より,はるかにいいと思う。かく言う私も実は,テレビが大好きだ った。会社勤めをしていたころはテレビを8 時間ほどボーっと見続け て放送終了に至ったことが何度もあった。しかし,フリー・プログラ マとして生きていく決心をしたとき,私はテレビを捨てた。ゲーム機 も捨てた。テレビの代わりに,有線放送を引いてJ ポップかCLUB MIX を聞いている。もちろんカラオケの持ち歌は「あゆ」に決まっている。 バーチャファイター3 をやりたくなったら,池袋のゲーセンに行って アーケードのやつをやるのだ。

仕事はメールでやってくる

 その日,目が覚めて時計を見ると午前2 時半──。また椅子に座っ たまま寝てしまったようだ。1 日16 時間くらい椅子に座って仕事を するので,はりこんで8 万円くらいのものを購入してある。

 飼い猫2 匹にエサをやってからお茶をいれる。フタ付きの大きなマ グカップに電気ポットで沸かしたお湯を注ぎ,「梅山(メイサン)」茶 をティー・スプーンで1 杯。横浜中華街の専門店から取り寄せた100 グラム3000 円の高級茶葉は,私の生活中トップクラスのぜいたく品 だ。会社勤めのときにインスタントコーヒーにミルクと砂糖をどっさ り入れて一日中飲み続けていたのに比べれば,はるかに体にやさしい はずだ。さらに,誕生日に妹からもらった,肝臓によいという「ウコ ン」を飲む。タバコに火をつけたら仕事開始だ。タバコは1 日3 箱だ からチェーンスモーカーと言える。健康に気をつけているのか,つけ ていないのかわからない。

 メールをチェックすると,会社勤めをしているころに付き合いがあ った企業の担当者から相談が来ている。彼とは1 年ぐらい顔を合わせ ていない。2 年半くらい前に納めたシステムは確か「Windows NT + IIS + ASP + Visual Basic + Oracle」だったっけ。まだ現役で活躍 しているだろうか? 今回の依頼は,Web ベースの営業管理システム をLinux + Apache + Oracle またはSybase で作りたいというもの。 訪問して詳しい話を聞くことにする。次のメールは,保守運用を請け 負っているインターネット・サーバーにバーチャル・ドメイン環境を 設定してくれという依頼だ。これは単純な仕事なので,朝飯前に済ま せてしまおう。

 私の仕事はほとんどの場合,私の仕事場兼自宅からのリモート・オ ペレーションで済む。こうした恵まれた条件は取引先の厚意に負うと ころが大きいのだが,慣れというのは恐ろしいもので,最近では客先 に常駐するような仕事は極力避けるようになってしまった。

 おっと,朝の7 時を過ぎてしまった。もたもたしていると私の好き な「朝マック」(編集注:マクドナルドの朝定食)の時間が終わって しまう。近くのマックに駆け込み,「ソーセージ・エッグ・マフィンの セットで,ドリンクはコーラ。それと,ソーセージ・エッグ・マフィン をもう一つ」と,いつものオーダーをする。朝飯が終わったら仕事だ。 その後は仕事の進み具合に応じて,昼過ぎか夕方に食事をする。

 で,17 ~ 20 時ごろのどこかで,電池が切れてダウンするというわ け。アフター5 に活気づく街で,1 日の終わりのような顔で歩いてい る人を見かけたら,それは私かもしれない。