NGNでは,第4回で解説したの呼制御処理と並行して,帯域確保の処理を実行する。第4回の図5で言うと(2)の後だ。具体的にはCSCFサーバーからRACFサーバーを経由して,IPエッジに必要な帯域を確保するように指示を出す(第4回の図5a,b)。

 ただIPネットワークには,パケットの長さが可変長で,様々な転送経路を取り得るという性質がある。このため,厳密な帯域保証や品質維持は原理的に難しい。

 そこでNTTのNGNでは,「IPエッジでリソース割り当てを実施し,ネットワークのコアではDiffservのような仕組みを使って優先制御だけを行う」(雄川氏)という考え方でQoS制御を実現している。Diffservとは,通信(フロー)ごとに帯域を保証するのではなく,通信の種類(クラス)ごとに優先制御を行う方法である。例えば,パケットを音声とデータに分類し,遅延の影響を受けやすい音声を優先的に転送する。

 IPエッジでは,処理能力を超えて輻輳(ふくそう)の原因となるようなセッションは許可しない(図6)。CSCFサーバーにはあらかじめ許容するセッション数が設定され,端末からのセッション確立要求を受けても一定以上のセッションは確立しない。こうした処理により,結果的にIPエッジでの帯域が保証される。

図6●NGN内部での帯域確保のしくみ
図6●NGN内部での帯域確保のしくみ
実はIPネットワークでは,ATMのような厳密な帯域保証は実現できない。そこで, IPエッジでセッションの本数を制限し,コア・ルーターでは音声パケットを最優先にする「LLQ」(low latency queuing)と呼ぶQoS手法で通信品質を維持する。
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SIPの中身を見て帯域割り当てを決定

 図5にある発信側(A)のHGWが送信するSIPメッセージ(INVITE)には,「m行/a行」と呼ぶ情報が格納されている。メディアの種類(音声,映像,データ)と通信方式(双方向,片方向)を示した情報で,CSCFサーバーはSIPメッセージからm行/a行の情報を読み取り,それに応じて帯域と転送品質クラスを決める。コア・ネットワークでは,この転送品質クラスに基づいて優先制御する。こうしたSIPの仕様は,一般のIP電話システムにはない,NGN独自のものだ。

 転送品質クラスには,最優先クラス,高優先クラス,優先クラス,ベストエフォート──の4段階の優先度を設定できる。電話の音声やテレビ電話の映像は最優先クラス,ISP接続はベストエフォートを使う。

 帯域と転送品質クラスを決定したCSCFサーバーは,その情報をRACFサーバーに伝える。この際には「Diameter」(ダイアメーター)というプロトコルを使う。Diameterは認証プロトコル「RADIUS」の後継として開発されたプロトコルで,IMSを構成するサーバー間で制御情報をやり取りするための中心的な役割を果たす。

 RACFサーバーは,CSCFサーバーの要求を受けてIPエッジに帯域確保と優先転送の指示を出す。この際,RACFサーバーとIPエッジの間では「Megaco」(メガコ)というプロトコルを利用する。Megacoは,IP網と電話網を接続する「メディア・ゲートウエイ」の制御プロトコルで,輻輳時の緻密(ちみつ)な制御機能を備えている。二つの網の間でメディアを制御する役割を果たすという点でIPエッジはメディア・ゲートウエイと同じである。そこで,ITUはIPエッジの制御用プロトコルにMegacoを採用した。

コア・ルーターの処理は優先制御だけ

 一方,コア・ルーターでは,RACFサーバーからの指示で帯域を確保するような制御はなく,IPパケットの種類を見て優先順位を決め,その順位に従って転送するだけの処理となる。コア・ルーターは,多くのIPエッジから集まる膨大なトラフィックを束ねる。このため,処理負荷を抑えられるようにCSCFサーバーやRACFサーバーによる細かな制御は加えずに,単にIPパケットのクラスに従って転送の優先順位を決めるだけにしている。

 IPパケットのクラスは,IPヘッダーの「TOS」と呼ばれるフィールドに書き加えられた値(DSCP値)によって分類される。この値には,4種類のクラスがありNGNの転送品質クラスに対応している。特に,加入電話並の音声品質を実現するため,音声のような遅延に敏感なパケットだけを最優先に転送する「LLQ」と呼ばれる方法を採用している。