NGNで最も重要な技術で,最大の目玉と言えるのが「帯域確保型通信」である。NGNは,通信ごとに確保する帯域幅などを動的に設定し,トラフィックを制御できる帯域制御(QoS)機能を持っている。
様々な種類の通信サービスを一つのIPネットワークに共存させるためには,NGNのQoS制御は必要な機能である。特に,加入電話と同等品質のIP電話サービスとベストエフォートのISP接続サービスを同じネットワークで提供するために欠かせない。
ただし,IPネットワークは元来,帯域制御に向かない性質がある。そこでNGNでは,優先制御をベースに様々な工夫を施して帯域確保の仕組みを実現している。
呼制御と帯域制御の処理を同時進行
例としてIP電話端末同士で通話する場合の通信を取り上げる(図5)。
図5●通話開始時の帯域確保の仕組み 公表された資料や標準規格,取材で得た情報などに基づいて本誌が推定した。NGNでは,セッション確立のためのSIPメッセージ中にメディアやコーデックの種類を記述しておき,それに基づいてルーター(IPエッジ)に帯域確保の指示を与える。 [画像のクリックで拡大表示] |
NGNでは,処理の流れが二つある。一つは,通話用のセッションを端末間で確立するための呼制御(図5の(1)~(6))。もう一つは,そのセッションに必要な帯域を確保するためのQoS制御(図5のa,b)である。
呼制御にはSIPを利用する。SIPはもともとIP電話の呼制御のために作られたプロトコルだが,様々なマルチメディア・データのセッションやフローを確立・制御する機能を備えている。発信端末(A)と受信端末(B)の間では,CSCFサーバーが中継役となってSIPのメッセージをやり取りする。
QoS制御には,CSCFサーバー,RACFサーバー,IPエッジの三つの装置がかかわる。CSCFサーバーがSIPのメッセージ中にある情報を読み取り,それに基づいて割り当てる帯域を決める。RACFサーバーは,CSCFサーバーから割り当て帯域の要求を受けてIPエッジに指示を出す役割を果たす。
CSCFサーバーの仲介でセッション確立
これらの制御の流れをもう少し詳しく見ていこう。まず通話のためのセッションを確立する手順を追ってみる。
初めに,発信側のAから電話をかける(図5の(1))。するとA側のHGWは,セッション確立を要求する「INVITE」というメッセージをCSCFサーバーに送信する(同(2))。CSCFサーバーは相手の端末BにINVITEを転送(同(3))。INVITEを受け取った着信側,Bの電話機が鳴動音を出す。
B側のユーザーが受話器を上げる(同(4))と,今度はB側のHGWがCSCFサーバーに「200 OK」というメッセージを返す(同(5))。CSCFサーバーは,そのメッセージを端末Aに転送する(同(6))。これで端末Aと端末Bの間に通話用のセッションが確立される。あとは,そのセッション上で音声パケットをやり取りする(同(7))。