計画や意思決定は,多かれ少なかれ「仮説」に基づいている。この仮説が多いほど計画通りに実行するのが難しく,仮説が外れた場合に「大失敗」となりやすい。これを回避する手法が「仮説のマネジメント」だ。今回は,事業やプロジェクトの計画段階から実行段階にまでスコープを広げ,大失敗を防ぐ計画立案と意思決定のテクニックを解説する。

宮本 明美
インテグラート 取締役

 前回,計画策定や意思決定をする際に,「自らの情報や知識の限界を知っておくことが重要である」という話をしました。情報や知識を持つ場合と,持たない場合とでは,計画や意思決定のためのデータ・アセスメントの方法が違ってくるだけでなく,計画の立て方や計画実行時の管理方法も変えなければなりません。

 ビジネスの現場では,「計画が正しいこと」や「結果が計画通りになること」が求められます。これは,実行しようとするビジネスについての経験の有無や,情報・知識の有無にかかわらず,一般に「計画と実績のギャップが小さい=良い計画」と考えられていることが原因です。その結果,計画通りにならないことをできるだけ回避するように配慮した,手堅い“平均点”の計画や戦略案が立案されることになります。

 プロジェクトをいざ実行する段階になっても,担当者は「計画通りの実行結果を出すこと」を最優先に考えます。「計画通りにならないのは実行者の落ち度」と評価されるからです。しかし,計画通りの結果が出るまで頑張り続けた結果,もはや軌道修正もできず,大失敗に至るケースが少なくありません。

「仮説」が多いほど,計画通りにならない確率は高くなる

 初めて取り組む事業や不確実性の高い事業について計画を立てる場合,その事業に関連する経験や知識が少ないため,より多くの「仮説」に基づいて計画を策定しなければなりません。「仮説」とは,事業計画や戦略案を立てる際の仮定や前提事項のことです。

 本連載の初回から取り上げているA社の新規事業プロジェクトを例に考えてみましょう。富裕層男性向けの新ブランドを立ち上げるプロジェクトです。A社のプロジェクトでは,デパートや化粧品取扱店など,女性用化粧品を取り扱う既存販売チャネルをベースとした「従来案」と,インターネットでの会員専用サイトという,これまで利用したことのない販売チャネルを利用する「見直し案」が出ていました。両者の間には,事業計画を立案する際に使える経験や知識量に差があります。より新規性が高く,事業環境の不確実性が高い「見直し案」の方が,より多くの「仮説」に基づいて計画を立てることになります。

 その計画が基づいている「仮説」の数が多いほど,実行結果が計画通りにならない可能性が高まります。しかしながら,多くの場合,事業計画の中で「仮説」と「知識」が区別されずに取り扱われています。事業計画を立案・実行する際に,常に仮説を意識して検討・対処していれば,たとえ仮説が計画通りにならなくとも,目標達成ができる可能性を高められます。少なくとも,大失敗は防げるでしょう。このような取り組みのことを,「仮説をマネジメントする」と言います。

 たくさんの仮説に基づいた計画の場合には,「計画(仮説)は外れるもの」というスタンスで,仮説のマネジメントに注力することが有効です。この発想の転換が,非常に大切なのです。

 では,いつものようにA社の新規事業プロジェクトを題材にして,具体的に陥りやすい問題を見てみましょう。既存の販売チャネルを生かした「従来案」と,インターネットを販売チャネルとする「見直し案」の2つの案について,それぞれ再検討が行われています。