「PlayStation」や「Xbox 360」,「Wii」といった家庭用ゲーム機は,IT業界で珍しい極めて閉鎖的な(クローズド)プラットフォームである。UNIXやWindowsのようなオープン・プラットフォームのように,自由にアプリケーションを開発したり動作させたりできない。しかしいよいよ,家庭用ゲーム機もオープンになろうとしている。

 現行の家庭用ゲーム機の中で,最もオープンなプラットフォームになろうとしているのが,マイクロソフトの「Xbox 360」だ。マイクロソフトは2008年2月21日,「Xbox 360」のオンライン・サービス「Xbox Liveマーケットプレイス」で,一般のユーザーが制作した「Xbox 360用の自作ゲーム・タイトル」を,他のユーザーがダウンロードできるようにすると発表したからだ(関連記事:マイクロソフト,Xbox 360で「ユーザー自作ゲーム」のダウンロードが可能に)。マイクロソフトが「家庭用ゲーム機として史上初の試み」と自賛するように,これは極めて画期的な取り組みといえる。

 現在の家庭用ゲーム機では,ユーザーやベンダーが自由にアプリケーション(ゲーム・タイトル)を開発したり配布したりすることはできない。これは家庭用ゲーム機というビジネスが「ハードウエアの販売」だけでなく,「ゲーム・タイトルを開発したサード・パーティからのロイヤリティ収入」からも成り立っているからである。

 家庭用ゲーム機のサード・パーティがハードウエア・ベンダーに支払う費用は多岐に渡る。まずはゲーム・タイトル開発のための専用開発ツールが必要だし,ゲーム・タイトルを収録したメディアの製造をハードウエア・ベンダーに委託したり,ハードウエア・ベンダーに対して1枚当たりいくらかのロイヤリティを支払ったりしなくてはならない。家庭用ゲーム機では,ハードウエア・ベンダーが定めた工程で製造されたメディアでなければゲームを起動できない。開発ツールさえあればゲームが販売できるわけではない。

 このように家庭用ゲーム機は,公開情報に基づいてアプリケーションを開発して自由に使用できる「オープン・システム」とは全く異質の,極めてクローズドなプラットフォームである。そのような中でマイクロソフトの施策は,かなり異色のものである。

開発環境を無償化したマイクロソフト

 まずマイクロソフトは2006年12月に,Xbox 360用とWindows用のゲーム・タイトルが開発できる「XNA Game Studio」という開発ツールを無償で公開した。これは,「XNA Framework」という「.NET Frameworkのゲーム版」の上で動作するゲームを,「C#」で開発できるというツールだ。大手のゲーム・タイトル・メーカーが利用するツールとは異なる「簡易版」だが,Xbox 360上で動作するプログラムを自由に開発できるという点で,画期的なツールだった。

 もっとも現状では,XNA Game Studioで開発したゲームを,開発者以外がXbox 360で動作させるためには面倒な手続きが必要だ。なぜなら,XNA Game Studioで開発したXbox 360用ゲームは,ソースコードの配布のみが可能で,実行形式のプログラムを配布できなかったからだ。

 開発者以外のユーザーがXNA Game Studioで開発したゲームをプレイするには,ソースコードを手に入れて,それをXNA Game Studioでコンパイルし,パソコンからLAN経由でXbox 360にコピーする必要があった。そして,ゲームをパソコンからXbox 360にコピーする機能は,「XNA Creators Club」という有償サービスに加入しないと利用できなかった。

これは「ゲーム版のYouTube/ニコニコ動画」

 しかし今回の発表によって2008年内に,XNA Game Studioでユーザーが自作したゲームは,「Xbox Liveマーケットプレイス」を通じて,他のユーザーに配布できるようになる。前述のような複雑な手続きは不要だ。公開されたゲームを他のユーザーが評価するようなシステムも実装されるという。マイクロソフトの担当者は「これはゲーム版のYouTubeでありニコニコ動画だ」と語るが,まさにそうだろう。在野のクリエータは,無償の開発ツールで開発したゲームを,全世界に1000万人以上存在するXbox 360のオンライン・ユーザーに向けてお披露目できるのだ。

 過去,在野のゲーム・クリエータを発掘するという動きが,家庭用ゲーム機業界になかったわけではない。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は1995年以来,「ゲームやろうぜ!」というクリエータ発掘企画を継続して実施している。これは,SCEが学生などに開発機材や開発資金を提供してゲームを開発させるというものだ。

 しかし音楽業界で例えるなら,SCEの取り組みは「レコード会社のオーディション」であり,ゲーム・クリエータはSCEに認められて初めてデビューできる。それに対してXbox 360での取り組みは,マイクロソフトから独立した立場のゲーム・クリエータが,流通チャネル(Xbox Liveマーケットプレイス)だけを利用して,ゲームを直接発表できる。音楽業界で例えるなら,「インディーズ」である。