バックボーンのトラフィックは,インターネットが広く一般に使われるようになった1995年から,18カ月で2倍のペースで急激に増え続けている(図2)。
図2●増加し続けるトラフィックをさばくために高速化を続けるイーサネット IEEEのHSSGのページで公開されているチュートリアルや,電気情報通信学会PN研究会の発表資料「λアクセスプロジェクトの概要」,電子情報通信学会ソサエティ大会の発表資料「次世代イーサネット(100G/40G)および関連技術の動向」などに基づいて作成した。ネットワークのトラフィックは年々増加しており,特に1995年からは18カ月ごとに2倍という早いペースで増え続けている。イーサネットは,それに対応するために高速化を続けてきた。 [画像のクリックで拡大表示] |
それに歩調を合わせる形で,イーサネットも常に高速化を続けてきた。1995年に100Mビット・イーサネット,1998年にギガビット・イーサネット,2002年に10Gビット・イーサネットという具合に,3~4年ごとに次々と新しい高速伝送仕様が登場している。
トラフィックが増え続けている今,これまでと同様に,イーサネットのさらなる高速化が期待されている。それに応えるのが100Gビット・イーサネットである。
100Gビット・イーサネットを必要としているのは,インターネットのトラフィックが集中するIXやISPである。また,インターネットのトラフィック源である大規模なサーバー群を置くデータ・センターも100Gビット・イーサネットの最初のユーザーとなるだろう。
「すぐにでも100Gイーサがほしい」
【総論】の図1で示したように,JPIXのトラフィックは一時100Gビット/秒を超え,2008年にはそれが当たり前になろうとしている。JPIX技術部の加藤典彦部長は,「お金を出して手に入れられるなら,すぐにでも買いたい」という。「10Gビット・イーサネットは必要な時に既にあったが,100Gビット・イーサネットはまだベンダーから具体的なロードマップすら示されていない」と現状を説明する。
日本よりもトラフィックが集中しているのは,欧州のIXである。大手IXが複数あり,しかもISP同士が直接ピアリングするケースが多い日本国内では,トラフィックがある程度分散されている。これに対し,欧州のISPは,IXを経由してトラフィックをやりとりするケースが多いため,IXにインターネットのトラフィックが集中する傾向にある。オランダのアムステルダムにある,世界最大のIX「AMS-IX」では,トラフィックが,既に370Gビット/秒を超えている(図3)。
図3●欧州のIXでは既に危機的状況 欧州にある世界最大のIXであるAMS-IXのトラフィック(2006年9月~2007年11月)を示している。流入してくるトラフィックは既に370Gビット/秒を超えている。 [画像のクリックで拡大表示] |
煩雑なLAGの運用からIXを開放
IXが100Gビット・イーサネットにこだわるのは,10Gビット・イーサネットを束ねて高速化する現在の手法がすでに限界に達しているからだ。
JPIXを例に取ると,2004年ころは,ユーザーのISPを収容するのにギガビット・イーサネットを使い,IXのバックボーンに10Gビット・イーサネットを使っていた(図4)。つまり,ユーザー側に比べて10倍の速度を持つ技術をバックボーン側に使っていたことになる。
ところが2007年現在,ユーザーの収容とバックボーンの構築の両方に,10Gビット・イーサネットを利用している。「3年前は,複数のユーザー回線に見合った,十分高速なバックボーン回線を利用できた。しかし,今はユーザーとバックボーンの回線速度が同じになってしまった」(JPIXの加藤部長)。
10Gビット/秒のユーザー回線を複数収容した場合,当然バックボーンの帯域は10Gビット・イーサネットのリンク1本で足りなくなる。そこで,複数のリンクを束ねてあたかも1本のように運用する「リンク・アグリゲーション」(LAG)という技術を使っている。
現在,JPIXでは4本の10Gビット・イーサネットを束ね,1本の40Gビット/秒のリンクとして運用している。今のペースでトラフィックが増えていけば,2008年には8本のLAGが必要になるのは確実だ。LAG自体は,企業ネットワークで利用されている一般的技術だが,設定や運用に手間がかかり,ネットワーク構成が複雑になる。
100Gビット・イーサネットが利用できるようになれば,2004年以前のように,IXのバックボーンの帯域が,ユーザーを収容するポートの10倍という理想的な状態に戻ることができる。
ISPでは伝送装置とコア・ルーターを接続
ISPのバックボーンも,IXと同じ状況にある。例えば,インターネット接続サービス「OCN」を提供するNTTコミュニケーションズでは,東京と大阪の間にバックボーンを構築しているが,その帯域は現在160Gビット/秒に増強されている。そうしたバックボーンを支えるためには,「今すぐにでも100Gビット・イーサネットが必要」(同社ブロードバンドIP事業部 IPテクノロジー部の友近剛史担当課長)という状況にある。
具体的には,コア・ルーターと伝送装置をつなぐ部分に,100Gビット・イーサネットが使われる。例えば,東阪を結ぶような長距離区間は光伝送装置を利用,光伝送装置とルーターをつなぐ個所にはイーサネットを使うのが一般的だ。
サーバー集約に100Gイーサが活躍
個々のサーバーに使うインタフェースは当面ギガビット・イーサネットや10Gビット・イーサネットで間に合うが,それらを束ねる集約スイッチには,100Gビット・イーサネットが必要になるだろう。
例えば,CDN事業最大手の米アカマイ・テクノロジーズでは,CDN用配信サーバー(アカマイ・サーバー)の集約スイッチ向けに,100Gビット・イーサネットを「2009年中には使い始めたい」(同社Asia-Pacific Network Strategy担当のマーク・バロン ディレクタ)としている。
また,NANOGが2007年6月に開催したパネル討論において,米Yahoo!も100Gビット・イーサネットが必要な状況を訴えている(図5)。同社は,2層のレイヤー3スイッチ群を使って,多数のサーバーを収容している。現時点では最も高速な10Gビット・イーサネットを使ってスイッチ同士を接続しているが,配線が非常に複雑になる。もし100Gビット・イーサネットがあれば,構成をシンプルにでき,設計や運用がとても容易になるという。
図5●大規模サーバー・ファームではすぐにでも100Gビット・イーサネットが必要 2007年6月に開催されたNANOG(North American Network Operatorsf Group)のミーティングの公開資料に基づいて作成。 |