米IBMや米アクセンチュアといった海外ベンダーに続き、富士通や日立製作所、NEC、NTTデータといった日本の大手ITベンダーも2007年から、インドのIT力活用に動き出している(表)。自らのグローバル化を推し進めるための足がかりにするのが目的だ。
表●インド戦略を強化する大手ITベンダー4社。インド進出の狙いは大きく2つに分かれる | ||||||||||||||||||
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海外売り上げ40%超に向けインドを使う富士通
富士通がインドにおく開発拠点は、プネにある富士通コンサルティング・インディア・リミテッド(FCIL)。富士通の米国子会社、富士通コンサルティング(FC)の子会社だ。FCが06年2月に買収した旧ラピダイムの子会社を、07年4月に社名変更した。人員数も、買収時の800人規模をほぼ倍にまで増やしている。
FCILは、富士通のグローバル戦略にとって「不可欠な拠点」(グローバル戦略本部の山崎信吾本部長代理)。FCILをテコに、「海外売り上げ比率を06年度の36%から3年間で40%超に伸ばす」(同)のが目標だ。FCILの売り上げ構成は、米国向けが70%、インド国内が20%。「日本と欧州・中東地域を合わせても10%程度に過ぎない」(同)という。
FCILでは主に、独SAP製と米オラクル製のERP(統合基幹業務システム)パッケージの新規導入やバージョンアップのプロジェクトを請け負っている。契約型やオフショアに慣れた顧客を多数持つ、FCや英国子会社の富士通サービス経由で受注している。山崎本部長代理は、「今はオフショアが未成熟な日本向けは考えていない」と話す。
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写真●FCILがノイダに設けた4カ所目のオフショア開発拠点 [画像のクリックで拡大表示] |
そのFCILは07年10月、1000万ドルを投じ、1200人規模のオフショア開発拠点をデリー近郊のノイダに設けた(写真)。4カ所目の拠点である。さらに08年上半期中には、プネに1000人規模のセンターを新設し、インド全体で4000人の従業員を収容する計画だ。FCILの06年度売上高は30億円だったが、今後は年率50%成長を目指し、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)関連のインドITベンダーの買収も視野に入れている。
富士通はこれまで、1000人規模の技術者を抱える印ゼンサーに30%を出資し、パートナー関係にあった。だが07年7月に、この出資を解消した。「インド国内でFCILの競合先になる」(山崎本部長代理)と判断したのが理由だ。社内の矛盾をあらかじめ取り除き、指揮系統の一本化を図ったわけである。富士通は今後、インド拠点の規模を09年度末までに8500人に拡大する計画だ。
インド企業と提携しサービス拠点を確保した日立
日立製作所は07年4月、古川一夫社長を議長とする「日立グループ・インド戦略会議」を新設した。グループ全体でインド事業の強化を図るとともに、2010年度にインドで2000億円を売り上げるのが目標だ。
情報通信グループのインド拠点は、日立グローバルソリューションセンタ(HGSC)である。05年11月に、インドのサティヤム・コンピュータ・サービスとインドに開発拠点を持つ米インテリ・グループをパートナーに立ち上げた。バンガロールとハイデラバードにある両社の拠点内に日立専用の区画を設け、両社の技術者が従事する。海外企業や海外進出する日本企業のERP導入プロジェクトをオフショアで開発するのが主な事業内容だ。
日立の情報通信グループは、売上高を07年度の1兆8491億円から09年度に2兆円にする目標を立てている。その事業推進策の1つが、グローバル展開である。そのために07年4月、グローバル・マーケティング本部を新設した。同本部で海外パートナー戦略を練る斎藤眞人事業主管は、「グローバル化においては、米国、欧州、日本3拠点にある日立コンサルティングの事業拡大が急務。HGSCは、日立コンサルが受注した開発や運用、BPOのためのリソースを提供するのが役割だ」と話す。
現在、HGSCの従業員数は、受注するプロジェクトで増減するがおよそ50人程度。これを09年には500人程度にまで引き上げる。このほかにミドルウエア開発分野で400人程度のパートナー技術者を置いている。製品開発では仕様が明確なこともあり、「品質や開発手法を教え込めたため、順調に機能している」(調達本部本部長付の赤嶺功氏)。
HGSCの今後の位置付けについて斎藤事業主管は、「ソリューション事業では、顧客ごとに異なる業務知識が求められるため、パートナー企業からは『対応が難しい』との声が出ているのは事実。オフショアの器を整えれば仕事が増えるというわけでもない。しかし、インドの技術者を日立の傘下に入れないと、人材育成もコストの最適化も図れない。中国拠点の2000人と比べれば小さいが、技術力はインドのほうが高いだけに、ゆくゆくはHGSCの要員ごと引き取り現地法人化することを考えている」と話す。
中国リスクの軽減策に位置付けるNECとNTTデータ
一方、オフショア開発拠点が中国に集中することのリスク回避策や、技術力の獲得先としてインドに注目するのが、NECである。07年4月に、ソフトウェア事業推進ユニットに全社横断組織となる海外ソフトウェア開発推進本部を新設した。ビジネスユニットごとに実施してきたオフショア開発を効率を高めるのが目的だ。
同社から中国への発注量は、06年度に月間4600人分。これを「09年度には7000人分に増やす計画。富士通や日立よりも1桁多いはず」と、ソフトウェア事業推進ユニット海外ソフトウェア開発推進本部長の小宮山博文氏は話す。それだけに中国依存のリスクも高くなる。加えて、オフショア開発拠点が多い中国沿岸部の人件費は「年率8%で上昇しており、15年には日本との差がなくなるだろう」(同)とみている。これに対し、「インドの人件費の年率上昇は5%」(同)という。
NECは05年12月にインド大手のエイチシーエル・テクノロジーズとの合弁会社であるNEC HCLシステム・テクノロジーズを立ち上げている。現在は180人体制で主に製品開発をしている。NEC HCLシステム・テクノロジーズの石井登会長は、「スキル・レベルは中国よりインドのほうが断然高い。実際、スーパーコンピュータのコンパイラなども開発している。英語の文献しかない最新製品でもすぐに習得できるのも強みだ。今後は、セキュリティやWeb2.0、グリッド・コンピューティングなどの先端技術にも取り組ませたい」と話す。NECでは、同拠点の人員数を07年度末までに300人体制まで引き上げる。アプリケーション保守などにも事業を広げ、売上高を06年度末の8億円を07年度に14億円、09年度には30億円に伸ばしたい考えだ。
NTTデータも07年11月、インドに初の拠点を設けた。従業員数約200人のバーテックス・ソフトウエアを買収したのだ(関連記事:NTTデータがオフショア開発でインドに進出、現地企業を買収)。オフショア発注先の発掘や整備を総括する中村逸一基盤システム事業本部ソフトウェアビジネス推進室長は、「中国に続く拠点としてバーテックスを選択した。日本語教育に熱心なプネに本拠地があり日本市場向けの人員を採用しやすいし、少人数のため日本の開発スタイルを浸透させやすいからだ。加えて、アジャイル開発など米国流の開発スキルも持っているため、中国よりコスト高であっても、これからの新しい軸に育てるには申し分ない会社だ」と話す。
NTTデータもNEC同様に、中国への発注量が多い。600~800人の技術者を抱え、発注額は06年度に35億円だった。09年度には2000人強、発注額100億円を計画する。ただ人件費の上昇について、「2010年には日本の半分程度になり、割安感がなくなるのではないか」(中村室長)とみる。そのため、中国以外へのオフショア比率を高める。現在、インドなど中国以外の国への発注量は5%程度。これを、3年後10%、5年後に30%にまで引き上げる。インドへの発注額は、09年度に10億円強を見込んでいる。