8回にわたって、日経コンピュータが第2回「企業のIT力」ランキングを作成する際に着目した8つの視点について1つずつ取り上げていく(→100位までの総合ランキングと調査の詳細はこちらの記事を参照)。6回目は、SOA(サービス指向アーキテクチャ)やシンクライアント、仮想化技術といった技術をどれだけ取り入れているかを聞いた「先進技術の導入」の柱を紹介する。3つの設問(調査票から「IT力」の算出に使った質問を抜き出して柱ごとにまとめた「抜粋版」)で、11種類の新しい技術について導入状況を聞いたところ、IT力ランキングで総合首位の松下電器産業が1位となった。

「先進技術の導入」ランキング

順位 企業名 偏差値
1 松下電器産業 78.62
2 日立製作所 77.99
3 トヨタ自動車 77.49
3 富士通 77.49
5 住友電気工業 73.35
6 カシオ計算機 72.72
7 リコー 72.22
8 アサヒビール 71.59
9 セブン-イレブン・ジャパン 71.46
10 キヤノン 71.09



第1位 松下電器産業

 松下電器産業が1位となったのは、海外拠点を含め全社でSOAを実現しようとしていることが評価につながったからだ。

 同社のシステムは「半導体」や「AVC」といった14の事業部(ドメイン)に共通する共通システムと、複数のドメインで共用するシステム、ドメイン固有のシステムとに分かれる。これら3種類のシステムを、ESB(エンタープライズ・サービス・バス)で同期させていこうとしている。全社の標準となる57の業務プロセスを定めた標準システムをESBを介して、各ドメインが利用できるようにする。

 2007年10月には、IT部門の組織改革に着手した。これまでは要件定義や設計、システム基盤の開発と分かれていた組織を、マーケティング・ロジスティクス、開発生産、インフラの3種類に分け直した。狙いは、業務ノウハウの集約にある。例えば、CRM(顧客関係管理)システムを担当するマーケティング・ロジスティクスは、すべてのドメインに対してCRMを提供することになる。そのために、すでに定めている標準の業務プロセスより、1段上で標準化を進めていく。各ドメインに共通するCRMの機能を抜き出し、CRMシステムを作り上げていくからだ。松下電器産業のように全社最適を進めた上で、SOAを実践する企業はまだ少ない。


第2位 日立製作所

 日立製作所(総合7位)は2005年から情報漏洩対策として、シンクライアントの導入を進め、今年度中にも全社展開を終える。同社はデジタルメディア・民生機器や電力・産業システムといった7つの事業部門を抱え、従業員は4万人を越える。シンクライアントを導入する企業は増えつつあるが、一歩進んだ取り組みと言える。

 現在はブレード・サーバーを中心にしたサーバー統合を進めるが、グループ内に存在するサーバーは2万台弱。実態を捕捉できているのは85%にとどまる。そのため、サーバー統合を終えるにはもう少し時間がかかりそうだ。しかし、ITベンダーであるため、この柱で聞いた「先進技術」の大半を取り入れており、2位に入る結果となった。


第3位 トヨタ自動車、富士通

 トヨタ自動車(総合2位)は中長期の経営方針に合わせ、技術を先読みする力を持つことが強みである。現在、同社は2020年までの経営方針を明らかにしている。IT部門は、経営計画を支えるためのシステムを考えなければならない。ITベンダーなどから2015年ごろまでのロードマップを聞く。そこから先はトヨタ自動車自身で先読みをしていく。「2014年に新型プロセサが登場する予定だと、その次は2018年になる。2017年前後にはシステム構築に取りかかるため、それまでに次世代プロセサを間に合わせるようITベンダーに依頼しようか」、といった議論を繰り返しながら、技術を先読みし、取り入れていく。

 同じく3位に入った富士通(総合25位)は、グループ内のシステムの共通化に取り組んでいる最中だ。その際に、SOAの考え方を取り入れている。同社は、基本的に自社製品を利用して基幹システムを開発している。そのため、日立同様、今回聞いた「先進技術」の大半をすでに導入していることが結果につながった。