8回にわたって、日経コンピュータが第2回「企業のIT力」ランキングを作成する際に着目した8つの視点について1つずつ取り上げていく(→100位までの総合ランキングと調査の詳細はこちらの記事を参照)。2回目は「人材育成」を取り上げる。IT部員育成のための制度や、IT部門の人数の増減などについて7個の設問(調査票から「IT力」の算出に使った質問を抜き出して柱ごとにまとめた「抜粋版」)で聞いたところ、住友電気工業、日立製作所、東京海上日動火災保険の3社が1位となった。

「人材育成」ランキング

順位 企業名 偏差値
1 住友電気工業 77.02
1 日立製作所 77.02
1 東京海上日動火災保険 77.02
4 松下電器産業 76.52
4 トヨタ自動車 76.52
4 村田製作所 76.52
4 富士通 76.52
8 ローム 74.91
9 東芝 73.80
10 極東開発工業 72.32



第1位 住友電気工業

 住友電工は開発方法論や生産性向上などについて研究する部隊をIT部門の中に置いている。投資効果を問わない「試作」枠をIT予算に設けておき、研究部隊が検証用システムを構築するための費用などに充てる。このようなメーカー的発想で自由な研究活動を許す環境が、人材育成に効果を発揮している。IT部員が「新しいことに挑戦している」という自覚を持つことが、労働意欲の向上や自信につながっているという。

 同社はほぼすべての基幹業務システムを自社で開発している。1999年には、Web画面の表示や画面遷移など汎用性の高い機能を盛り込んだJ2EEベースのフレームワークも、ITベンダーに頼らず独自に開発した。自社開発を貫くためには、IT部員の育成が非常に重要だ。技術力の高いIT部員を育成する源泉となっているのが、前述の研究部隊の存在である。

 先進技術のリサーチや検証をする部隊をシステム子会社内に持っている企業はあるが、住友電工のように本体の中に同様の組織を抱えている例は珍しい。広範囲の業務を本体のIT部門で賄うことで、IT部員の意識を向上させる。この意識の高さが、住友電工の自前主義を支えているのだ。

 住友電工はユーザー企業向けITSS(ITスキル標準)を導入し、IT部員のスキルを明確化している。そのスキル・レベルに応じて、IT部員の処遇を決める制度も取り入れている。ユーザー向けITSSでスキルを明確化している企業は270社のうち26.3%、スキル・レベルに応じて処遇を決める制度がある企業は同11.5%だった。


第1位 日立製作所

 日立は各事業部ごとにIT部門を持っており、それらを統括する組織としてIT戦略推進本部がある。どちらの組織にも新人が配属されることはないため、日立のIT部門には生え抜きの社員が存在しない。これは、IT部門は現場を知っていることが重要だという考えに基づいたものだ。IT戦略推進本部の湯山恭史本部長自身も、半導体CADを20年担当した後、IT部門に異動した。利用部門との人事交流制度はあるが、どのIT部員も元々特定の業務に強いため、業務知識が問題になることは少ない。

 日立も住友電工と同じくユーザー企業向けITSSによるスキルの明確化と、スキル・レベルに応じて処遇を決める制度を導入している。ベテラン社員の技術を継承するためのプログラムなども整備しており、IT部員を育成するための研修制度は充実している。


第1位 東京海上日動火災保険

 東京海上日動は、2004年にIT部員を全国の拠点に転勤させる制度を開始した。目的は、IT部門に利用部門の業務を学ばせることと、利用部門のITリテラシ向上だ。転勤するIT部員には、システムの機能に対する不満や改善要望を吸い上げ、システム開発に生かすことが求められる。東京海上日動の澁谷裕以IT企画部部長兼企画室長は代理店のシステム構築を例に挙げ「実際に顧客と対面している代理店の声が何より重要。システム構築の際は、利用部門との交流制度が役立っている」と語る。

 ベテラン社員の技術継承や若手社員の育成にも力を注いでいる。システム開発やテストなどに際してベテラン社員によるレビューを制度化しているほか、若手社員に小規模のプロジェクトを任せ、ベテランや中堅の社員がPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)としてスキル指導に当たる取り組みも実施。若手がミスをしそうになった場合はベテランや中堅の社員がフォローし、失敗を未然に防ぐ。

 東京海上日動のIT部門の人数は2006年度以降増加している。ここ2年は、システム子会社の東京海上日動システムズと合わせて、毎年60人ずつ人数が増えている。理由は、2004年の旧東京海上火災保険と旧日動火災海上保険の合併以来「システムの開発キャパシティが足りないから、もっと増やして欲しいという要請が経営層からあった」(澁谷部長)ためだ。