プロジェクト管理を行う上で雑多な仕事もたくさんある。それらの仕事を片付け,プロジェクトマネジャを支援するのもPMO(Project Management Office)の重要な役割の1つだ。しかし,ベテランのPMOスタッフが,こまごまとした事務作業を受け持つのは,どうにも費用対効果が悪い。そんな時,プロジェクトに参画している庶務スタッフを巻き込み,PMOスタッフとして組織化するのも1つの手である。

高橋信也
マネジメントソリューションズ 代表取締役


 「このマスタースケジュール,古くない? この前のミーティングで設計スケジュールの変更が承認されたはずだけど」

 「もういない人の名前が組織図の中にいつまでも残っているけど,更新してくれない?」

 たくさんの検討会議に出席し,議事録を取り,課題の調整にひた走っていると,一度作ったドキュメントの更新までなかなか手が回らず,古いままになっていることがよくあります。更新しなくても何とかなると思ってしまったら,優先度が低くなってしまい,手を付けるのが一層遅くなります。これでは,いずれ問題が大きくなります。

 特にプロジェクト共通で使用するドキュメントは,適宜更新しなくてはなりません。新メンバーが参画する際にプロジェクト全体説明のオリエンテーションを行いますが,ドキュメントの更新を怠っていると,情報が古いまま伝達されてしまいます。小さな問題のようですが,こうしたミスコミュニケーションが積もり積もれば,全体として大きな無駄につながります。

メンバー入出管理などの庶務は「組織図の更新」にもリンク

 ミスコミュニケーションが今後拡大していきそうなら,PMOは早期に対策を考えなけれなければなりません。ただし,だからといってPMOのリードクラスの方が,こまごまとしたドキュメントの更新に時間や労力を割くことは無駄です。外部のコンサルタントを雇い,PMOのサポートを依頼する場合もありますが,この手の機械的な作業に注力してもらっても費用対効果が悪すぎます。

 このようなケースでは,プロジェクトにいる庶務スタッフに協力を求めるとよいでしょう。前回説明したように,PMOは目の前に起こりつつあるプロジェクトマネジメントの課題に対して,変幻自在に対処していくべき組織です。PMOのメンバー構成についても,それは言えます。

 プロジェクトがある程度大きくなれば,プロジェクトの事務・庶務を担当するアシスタント的なスタッフが必要となります。顧客企業側から人を出すこともあれば,システムインテグレータ側から人を出す場合もあるでしょう。いずれにせよ,この庶務スタッフには,(1)プロジェクトメンバーの入出管理,(2)文具類などの備品管理,(3)プロジェクトが属する企業内での事務作業(予算管理など)などを依頼することが多いと思います。

 ご覧のように,庶務スタッフの仕事にはプロジェクトに直接かかわらない作業も含まれていますが,例えば冒頭で紹介したような「組織図の更新作業」は,(1)入出管理と密接に関係していることが分かるでしょう。庶務スタッフと言えども,プロジェクトマネジメントとの接点は少なくないのです。

庶務スタッフをPMOに巻き込め

 この点にもっと注目して,庶務スタッフをPMOのスタッフとして組織化していくことを考えてみてはどうでしょうか。庶務スタッフの本来業務の延長線上にPMOの仕事があるのですから,それほど難しいことではありません。

 その際,庶務スタッフをPMOのスタッフとして正式に位置付け,庶務スタッフに受け持ってほしい役割や日々のルーチンワークを明確に定義することが重要です。プロジェクト全体を見てもらえるよう,意識合わせと動機付けを行うためです。庶務スタッフの意識を高めることで,積極的にプロジェクトマネジメントにも取り組むことができ,プロジェクト共通ドキュメントの更新に限らず,さまざまな役割を担ってもらえるようになると思います。

 庶務スタッフが顧客側から来た人であればコスト負担の調整が必要ですが,庶務スタッフはPMOにとって戦力になり得る存在です。


高橋信也(たかはし しんや)

 1972年福岡生まれ。修猷館高校を卒業した後,上京。上智大学経済学部卒。ゼミは組織論,日本的経営の研究。大学卒業後,アンダーセン コンサルティング(現アクセンチュア)入社。CやC++によるプログラミングから業務設計まで幅広い工程を経験した後,2001年よりキャップジェミニのマネジャとして経営管理・業績管理のコンサルティングプロジェクトに携わる。

 コンサルタントとしての外部の目からだけではなく,内部の目でマネジメントを経験したいとの思いから,SONY Global Solutionsへ入社。その当時,最年少プロジェクトマネジャとなる。グローバルシステム開発プロジェクトのPMOリーダーとして活躍。インドにおけるオフショア開発を経験。

 コンサルテーションから,自社開発のソフトウエア提供,改革実施後のチェンジマネジメントまで,「知恵作りのマネジメント」を支援するマネジメントソリューションズを設立し,現在に至る。連絡先は info@mgmtsol.co.jp