PMO(Project Management Office)の役割は、実態として企業組織やプロジェクトによって大きく異なる。PMOのあり方に悩んでいる現場の方々にすれば、「そんな定義では、PMOとしてどうしたらいいか分からない」と悩むだろう。しかし、これでいいのだ。PMOとは変幻自在な組織なのである。

高橋信也
マネジメントソリューションズ 代表取締役


 「PMOは一体、何をどこまで行う組織なのか?」――。

 この疑問に対して明確に答えることのできるプロジェクトマネジャやコンサルタントは数少ないと思います。そもそも明確に定義できるものなのか、と見る方も多いでしょう。本連載を通してPMOの役割を具体的に示してきましたが、ここでもう一度、PMOの役割について考えてみたいと思います。

「PMOの役割には大きな幅がある」、これが世界の常識

 まず、プロジェクトマネジメントの知識体系であるPMBOKガイド(A Guide to the Project Management Body of Knowledge)は、「PMO」を次のように定義しています。

 「管轄するプロジェクトを集中的にまとめて調整するマネジメント活動の、さまざまな責任が割り当てられた組織体。PMOの責任はプロジェクトマネジメントの支援を提供するところから実際のプロジェクトを直接マネジメントする責任をもつところまで幅がある(PMI、PMBOKガイド 第3版)」

 プロジェクト管理の手法は分かっているものの、「PMOという立場でそれをどのように使っていけばよいのか」「プロジェクトマネジメントやチームのアウトプットに対してどのように手を出してゆけばよいのか」などと悩んでしまうのは、PMOの責任に幅がある(ありすぎる)ところだと思います。PMBOKもそれを認めています。

 さらに、PMI(Project Management Institute)が会員向けに出している「プロジェクトマネジメントジャーナル」という季刊誌にも、PMOに関する興味深い調査結果が報告されていました。北米を中心とした500の事例から、さまざまな分析を行っているものです。そこからは、「PMOをどのように生かすか」という課題に対して、多くの企業が試行錯誤の最中であることが読み取れます。

 この調査結果で最も興味深かったのは、やはり「PMOの構造や役割、妥当性はそれぞれの組織によって大きく異なる」(Project Management Journal Research Quarterly, Volume 38, Number 1, March, 2007)と結論付けていることです。広範な調査に基づいた結果であり、PMOの本質的な特性をうまく言い当てていると感じました。

 一方、日本においては、2000年ごろからシステムインテグレータがこぞってPMOを立ち上げています。日経コンピュータの2004年2月23日号で、その内容が特集されています。ここでは次のような点が指摘されていました。

「問題点を指摘するだけで、後は現場まかせ」
「現場のプロジェクトメンバーから本音が聞けない」
「プロジェクトの状況をレビューする人員が質・量ともに不足」など

 PMOはさまざまな問題をはらんでいるという内容でしたが、PMOの役割が明確でなく、もがいていることの裏返しと見ることもできます。この状況は、今もあまり変わらないのかもしれません。

ならば、臨機応変に自らの役割を変化させていこう

 筆者は、プロジェクトの複雑性や多様性に対応するために、PMOの定義はプロジェクトごとに違っていても構わないと考えています。これはPMIの調査結果と同じです。

 さらに言うならば、筆者は『プロジェクトのフェーズやタイミングに応じて、PMOの役割は異なってしかるべき』とも考えます。例えば、代表的なPMOの役割には次のようなものがありますが、これらをプロジェクトの状況やタイミングに応じて使い分けていくとよいでしょう。

(1)プロジェクトマネジャと同じレベルでマネジメントを実行するPMO
(2)管理プロセスを導入するPMO
(3)プロジェクト運営の事務作業を担うPMO

 仮に、プロジェクトマネジャの負荷が非常に高くなっている状況であれば、PMOが一時的に(1)の役割を担うべきでしょうし、状況が落ち着いてくれば(3)の役割に徹してもいいでしょう。管理プロセスが徹底されていない組織・メンバーなら、プロジェクトを通して(2)の役割を引き受けることも必要でしょう。

 とにかくPMOは、プロジェクトがその時点で抱えている課題に対し、自らの役割を変幻自在に適応させていく“カメレオン”のような存在になるべきと考えます。このようなPMOの活動により、プロジェクトマネジメントはより一層成熟するでしょう。

 では、プロジェクトの「状況変化」に直面した時、PMOは具体的にどんなアクションをとるべきでしょうか。この点については、今後も本連載「PMOを生かす」で述べていきたいと思います。


高橋信也(たかはし しんや)

 1972年福岡生まれ。修猷館高校を卒業した後,上京。上智大学経済学部卒。ゼミは組織論,日本的経営の研究。大学卒業後,アンダーセン コンサルティング(現アクセンチュア)入社。CやC++によるプログラミングから業務設計まで幅広い工程を経験した後,2001年よりキャップジェミニのマネジャとして経営管理・業績管理のコンサルティングプロジェクトに携わる。

 コンサルタントとしての外部の目からだけではなく,内部の目でマネジメントを経験したいとの思いから,SONY Global Solutionsへ入社。その当時,最年少プロジェクトマネジャとなる。グローバルシステム開発プロジェクトのPMOリーダーとして活躍。インドにおけるオフショア開発を経験。

 コンサルテーションから,自社開発のソフトウエア提供,改革実施後のチェンジマネジメントまで,「知恵作りのマネジメント」を支援するマネジメントソリューションズを設立し,現在に至る。連絡先は info@mgmtsol.co.jp