先日、後輩の若手、と言っても三十は過ぎている記者と話した時、「“ふぉーじーえる”という言葉を初めて聞きました」と言われてしまった。彼は入社以来、システム開発の技術面を主に取材してきたはずなのに4GLの話題に接したことがない。となるとその年代以下の記者は皆、4GLを知らないのだろう。ITpro読者の皆様はいかがだろうか。

 4GLとは4th Generation Languageの略で第四世代言語と訳されていた。高生産性をうたった開発言語の総称で厳密な定義はない。第四世代の前は何かと言えば、第一世代(機械語)、第二世代(アセンブラ)、第三世代(COBOLやFORTRAN)となっていた。筆者が記者になった22年前、4GLは注目テーマの一つであり、「4GLを使い開発生産性をCOBOL利用時の10倍以上に引き上げた」といった事例報告が日経コンピュータにしばしば掲載された。

 2007年の今、なぜ4GLを持ち出したかというと、「Excelレガシー再生計画」という欄のために、「Excelを利用して業務システムを開発するツール」を作った人達を取材していたところ、先方から「かつて4GLがやろうとしていたことを引き継ごうとしています」と言った説明があったからだ。ここに出てきた4GLは、現場の利用者(いわゆるエンドユーザー)が業務システムを開発することを狙った製品を指す。当時、4GLと呼ばれた開発ツール製品は、エンドユーザー向けのほか、データ分析を手掛ける企画担当者向け、あるいは基幹業務システムを開発する情報システム部門向け、といったように得意分野が分かれていた。

 取材の中で「ワークステーションの統合OAソフトというものがありました」という発言も出た。確かにやはり20年くらい前にあった。ここで言うワークステーションとは、オフィスワークステーション(OWS)と呼ばれたもので、表計算ソフトや日本語ワープロが組み込まれたメインフレーム端末を指す。「5200や9450を知っているか」、「マイクロメインフレームリンク(MML)とは何のことか分かるか」とその記者に聞いたがいずれも知らなかった。若い読者のために書いておくと、5200は日本電気(NEC)、9450は富士通がそれぞれ開発・販売していたOWSで、5200はACOS、9450はMシリーズというメインフレームに接続できた。メインフレーム上の基幹システムに入っているデータをOWSに持ってきて表にしたりグラフにする。この仕掛けをMMLと言った。OWSもMMLもそれだけで日経コンピュータの特集記事が書かれるほど話題になったテーマであった。

 ここでちょっと脱線する。一つ前の段落の中に登場した英略語や製品名はいずれも死語になったか、なりつつある。2007年の今、ITpro上で話題になっている言葉の大半もまた、将来は死語になってしまうのだろう。

 本題に戻す。色々な略語を挙げていく中で、後輩がそれは聞いたことがあるかもしれない、と言った略語があった。「EUD(エンドユーザー開発)」である。もともとはEUC(エンドユーザー・コンピューティング)という言葉があり、EUDはEUCの発展した姿とされた。今回の原稿は略語が非常に多く、読者は読みにくいと思うが、EUCとEUDの違いは次の通りである。EUCは、先に書いたようにメインフレーム上のデータから、欲しい表やグラフを現場の利用者が自分で取り出すもの。EUDは、現場の利用者が必要な情報システムを自力で開発してしまうことを指す。EUCやEUDが取り沙汰された時期を筆者ははっきり覚えていないが、15、16年くらい前だったろうか。EUCは現在でも時折聞く言葉である。

 英略語が雑誌やWebサイトで報道されなくなっても、実態はしっかり残っていることが往々にしてある。「メディアが取り上げなくなった時こそ、その技術が普及した時」と仰る方もいる。4GLはどうか。情報システム部門か現場部門がきちんと技術を継承し、その4GLを作ったソフト会社が存続していれば、現在でも4GLを使って基幹システムを支えている企業があるはずだが、筆者の取材不足で実態はよく分からない。メインフレームからクライアント/サーバー(C/S)環境、さらに昨今のWeb環境への移行に伴い、開発言語やツールは相当変わった反面、老舗の言語やツールの開発会社の中に、C/S版やWeb版を出し続けているところがあるから、企業の現場で生き残っているものもあるはずだ。

 はっきり言えることが一つある。本稿で挙げてきた英略語群や製品群に込められた、「現場の利用者が使いたい/使いやすいシステムを現場の利用者の手で開発する」という夢の帰趨である。この夢が2007年の今、かなったかというと残念ながらそうではない。EUCやEUDの取り組みが停滞あるいは頓挫してしまった企業は相当ある。理由はいくつか考えられる。情報システム部門が既存システムの保守やERPパッケージの導入、あるいは情報セキュリティ対策に追われ、EUCやEUDまで手が回らなくなった。EUD推進派の現場担当者が異動してしまった。EUCやEUDのために入れたツールを作った会社が無くなってしまった、等々。

 Excelレガシー再生というテーマで色々と取材をしてよく分かったのは、「現場の利用者が使いたい/使いやすいシステムを現場の利用者の手で開発する」という狙いや要望を、結果としてExcelが吸収していた、ということである(「システム開発生産性が最も高い言語」参照)。「結果として」と書いたのは、Excelを作っているマイクロソフトが「企業の情報システム開発言語ないしツール」を提供しようとは考えていないからだ。マイクロソフトはあくまでも個人のツールとしてExcelを作ってきたが、利用者はもっと深く使っていった。過去のEUCとEUDへの取り組みが停滞した一方、 Excelの機能は着々と進化し、EUCとEUDの要望まで「結果として」取り込んでしまった。情報システムの世界においては、ある製品や技術があまりにも普及し、当初考えられていた利用形態を超えて使われることがある。UNIXやTCP/IPはそうだし、Javaもそうだ。“第五世代言語”になったExcelはその典型と言える。

 なお、日経コンピュータは、Excelレガシー問題に関するセミナー『内部統制の穴、「現場のExcel資産」を見直す』を10月17日に開催します。“第五世代言語Excel”に関心のある方はぜひご参加下さい。