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記者のつぶやき

システム開発生産性が最も高い言語

谷島 宣之=経営とITサイト 2007/09/07 日経コンピュータ

 10年くらい前、システム開発の生産性をいかにして上げるか、というテーマで取材をした時、CASE(コンピュータ支援によるソフトウエア・エンジニアリング)やシステム開発方法論に詳しいコンサルタントに会った。一通りの話が終わった頃、「ところで開発生産性が一番高い言語は何でしょうか」と聞いてみた。彼が挙げた言語は筆者にとって意外なものであった。

 「それは間違いなく、えくせるでしょう」。

 間抜けな話だが、「えくせる」と聞いて筆者はまったく新しい言語が登場したのかと思った。すぐにExcelだと気付いたが、「表計算のあれですか」と寝ぼけたことを言ってしまった。そのコンサルタントは「お前は何も知らないなあ」という表情をしながら、それを口に出すことはせず、「まあ、表計算ソフトと言えばそうですが、相当なことができますよ。Excelのマクロでさっと実現できる処理を通常の言語で記述しようとすると、桁違いのステップ数が必要です」と説明してくれた。

 学生時代にPascalやFORTRANでプログラミングをした経験があるが、Excelのマクロを使ったことは取材当時から今日に至るまで一度もない。ただ、Excelはシステム開発言語である、という指摘は印象に残った。

 数年後、別のコンサルタントに会った時、「システム開発言語としてのExcel」の話題に再びなった。そのコンサルタントは、ある流通業向けに新しい業務システムを提案し、ソフト会社にシステムを開発させ、納入したところだった。新システムの説明を一通り聞いた後、「開発言語は何ですか」と尋ねた。コンサルタントはにこにこしながら「何だと思いますか」と問い返してきた。突然、以前の取材を思い出し、当てずっぽうで「Excelでしょうか」と答えると、コンサルタントは「その通りです。よく分かりましたね」と言ってくれた。デモ画面を見せてもらったが、とても表計算ソフトを利用したとは思えない出来映えだった。

 いくつかの注意点を守って使えば、Excelで相当なシステムを開発できる、とそのコンサルタントは教えてくれた。印象的であったのは、現場の利用部門と情報システム部門を結びつける「共通言語」にExcelはなり得る、との指摘である。現場の利用部門は業務に様々な情報を使いたい。実際、必要に応じて、Excelを使っている。Excelのシートを見れば、必要な情報が「表」の形で整理されている。情報システム部門はその表から現場の要求を汲み取って、役立つ情報を出す業務システムを開発できる。大まかにまとめると、こういう主張であった。

 Excelが介在しない場合、現場は「これとこれが欲しい」と曖昧な要求を出し、情報システム部門は「たぶんこんな情報が必要なのだろう」と推測して、システムを作る。出来上がってから、「欲しいものと違う」「最初から言ってくれないと作れない」と押し問答が始まる。「利用部門に仕様書を作れ、というのは無理。でも表なら書ける」というコンサルタントの言葉もまた記憶に残った。

 さらに数年が経ち、先の二人とは別のコンサルタントと議論していた時に、またしてもシステム開発言語Excelに出会った。話題は、メインフレームで処理している基幹系システムと、サーバーで処理している情報分析系システムのほかに、業務支援系システムと呼ぶべき領域がたくさんある、というものであった。業務支援系は、金勘定を直接扱うわけではない。ただし、そのシステムを使い、ある情報を得てから、基幹系システムを使うと非常に便利になる。一例として、営業担当者の見積もり支援システムなどがある。

 そのコンサルタントは金融機関の情報システム部門に在籍していた当時、現場の要請を受け、業務支援系システムを一人で開発した、現場から大いに喜ばれたという。さすがに三回目になると、筆者は自信を持って指摘できた。「Excelで作ったのですね」。よく分かりましたねえ、とそのコンサルタントは言い、興味深いことを教えてくれた。

 「Excelでシステムを開発すると大きな問題が発生します。一人で相当のものを作れますが、わざわざ文書なんて残さないし、修整も自分一人でやってしまう。ですから運用まで含めても生産性は高まります。しかし、開発者がいなくなると誰も引き継げません。ちょっと前に用事があり古巣の金融機関に電話をしたところ、私が作ったExcelシステムをまだ使っていると聞きました。特に問題が出ないので誰も保守していない。データの整合性は大丈夫なのか、心配になりました」。

 6月25日付の本欄で「御意見募集、“Excelレガシー”への対処法」という短文を公開した。ここで初めて使った「Excelレガシー」という造語を思いついた経緯を今回簡単に紹介した。10年にわたり、3人のコンサルタントとやりとりした結果、「システム開発言語としてのExcelの可能性と課題」について報道することにした次第である。

 幸い、少なからぬ読者にこの言葉に関心を持って頂いたので、日経コンピュータ誌で特集記事「“Excelレガシー”再生計画」を掲載し、7月10日からは、Enterprise Officeに、「Excelレガシー再生計画」という欄を開設した。

 さらにEnterprisePlatform談話室「自らを棚に上げ、Excelレガシー問題担当記者に苦言」で予告した通り、Excelレガシー問題に関するセミナー「内部統制の穴、「現場のExcel資産」を見直す」を開催することを決めた。今回紹介したコンサルタントのうち、お一人が登壇する。「内部統制の穴」という題名になっているが、内部統制にとどまらず、システム開発言語Excelについて掘り下げようと考えている。議論・質疑応答の時間を長めに用意しているので、疑問や関心のある方はぜひご参加頂きたい。

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