米国時間9月5日,多くの期待に応えるべくApple CEOのSteve Jobs氏が特別イベントで発表したのが「iPod touch」だった(関連記事:Appleが「iPod」ラインを一新,マルチタッチの「iPod touch」が登場)。「iPhone」と同じマルチタッチ・インタフェース,3.5インチ・ワイドスクリーン,802.11b/gの無線LAN機能を備え,Webブラウザ「Safai」を搭載する。大方の予想通り,これまでとは全く違う「iPod」が登場した。加速度センサーによる画像アスペクト比自動調節機能,ページをめくるようにアルバム・ジャケットを切り替えられる「Cover Flow」を備えたiPhoneにそっくりなiPod。米AT&Tの携帯電話サービスに加入しなくても利用できるiPhone(関連記事:まだまだ続くiPhone騒動,「nano」や「3G」も?)が待ち望まれていただけに,その反響はすごい。
さらに驚くことにAppleは同日,iPod製品群すべての新モデルを発表した。かつてないシリーズ全体の一斉刷新である。何がAppleをそうさせたのだろうか。今回は発表された各製品を比較しながら同社の製品戦略について考えてみる。
なぜ? 発売わずか2カ月で異例の大幅値下げ
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写真1●iPodシリーズの新モデル「iPod touch」 縦のサイズは110mmでiPhoneに比べわずか5mm小さいだけ。横幅はiPhoneよりほぼ1mm広い61.8mm。厚さは8mmでiPhoneに比べ3.6mm薄い。重さは120gとiPhoneより15g軽い。 [画像のクリックで拡大表示] |
メモリ容量はiPhoneの2倍だが,iPhoneよりも200ドル安いと思いきや,Jobs氏はこの日,iPhoneの値下げも発表した。iPhone製品戦略の大幅見直しである。8GバイトのiPhone上位モデルはこれまで599ドルだったが,200ドル下げて399ドルとした。4GバイトのiPhone下位モデルは在庫がなくなり次第廃止するとし,すでにAppleのオンラインストアから姿を消したが,AT&TのWebサイト製品情報では同じく200ドル安い299ドルで販売している(関連記事:AppleがiPhoneを200ドル値下げ,MicrosoftもZuneを50ドルOFF)。
つまりiPhoneとiPod touchはその上位モデル/下位モデルとも同じ価格となったのだ(表1)。まもなくiPhone下位モデルがなくなることから,このシリーズは,(1)iPhone上位モデル(2)iPod touch上位モデル(3)iPod touch下位モデルで構成することになる。(1)と(2)は価格が同じ。(1)と(3)はメモリ容量が同じである。
表1●iPhoneとiPod touchの比較 | ||||||||||||||||||||||||
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iPhoneと同じ金額を出せば,メモリ容量が2倍のiPod touchが買えることになるわけだが,実はiPod touchはiPhoneの電話機能だけを省いたものではない。
「iPhone」の電話機能省略版に非ず
「iPhoneにあってiPod touchにない機能が多くある」――。そう指摘するのは CNET Networks News.comシニア・スタッフ・ライターのIna Fried氏(同氏はすでにiPod touchを手にしている)。同氏によると,iPod touchはiPhoneにあるような専用メール・プログラムやGoogle Mapsアプリを搭載していない。もしメールを使うのであればGoogle GmailなどのWebメールを使う必要があるが,iPhone搭載の専用メールの方がGmailより使い勝手はずっとよいという。同氏はiPod touchがカメラ,マイク,スピーカーを搭載していないことにも触れている。このためiPod touchにVoIPのような使い方を求めることはできない。ヘッドフォンはあってもマイクがなければ通話ができないというわけである。ただし,将来Appleに許可されたサード・パーティからiPod touchのDockコネクタに接続できるマイクが発売されれば可能性はないことはないとしている(CNet.News.comに掲載のブログ記事)。
iPod touchはiPhoneの機能を踏襲する機器だが,あくまでもWi-FiとWebの機能が付いたiPod。そしてiPhoneはiPod機能付き携帯電話。メモリ容量を除けばiPod touchより高機能。インターネット/Webアプリ/音声通話を組み合わせたさまざまなサービスが受けられる。ただしiPhoneは使い続ける限りAT&Tの利用料がかかる。iPhoneを利用できる米国に住んでいる人であれば,自分の目的に合わせてiPhoneとiPod touchのどちらかを選べるという選択肢が提供されたわけだ。
デザイン,UI,価格は同じでも両者はまったく異なる機器。iPod touchが登場しても,iPhoneの売り上げが鈍ることはないとAppleは考えたのだろう。今回のiPhoneの大幅値下げは,iPhoneの地位を確固たるものにすることと,同社の携帯電話市場への進出の加速化が目的と考えられる。さらにiPod touchは,iPhoneをまだ利用できない米国以外の市場への布石にもなる。Appleは,やがて世界市場で販売されるiPhoneの効果的なプロモーション・ツールという役割もiPod touchに持たせたのではないだろうか。
かつての最高峰,最新ながら名前は「classic」
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写真2●HDD iPodの最新モデルは総金属製の新デザイン 上位モデルはシリーズ最大容量の160GB。最新機種ながら名称を「classic」とした。 [画像のクリックで拡大表示] |
160Gバイトは,同社製ノートパソコン「MacBook」や「MacBook Pro」の上位機種のHDD容量と同じ。パソコン内の音楽/映像データすべてをまるごとiPodに転送して持ち歩きたいという人の要望に応える製品だ。iPod touchの8Gバイトと16Gバイトでは,そうしたユーザーは満足しない。
そしてAppleはこのiPod classicの価格を据え置き,249ドルと349ドルとした(日本では2万9800円と4万2800円)。大容量ながら,iPod touchの299ドルと399ドルからそれぞれ50ドル安く,値ごろ感を出した(表2)。
表2●iPod touchとiPod classicの比較 | ||||||||||||||||||||||||
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その差がわずか50ドルとはいえ,iPod classicがiPod touchより安いということは大きな意味を持つと考える。それはシリーズ全体における旗艦製品の交代を意味するからだ。これまでiPodの最高峰モデルは,最大容量を誇るHDD iPod。今回のiPod touchの登場で,HDD iPodはその座を明け渡したことになる。これからは,大容量フラッシュメモリ,マルチタッチ方式のタッチパネル,携帯機器向けMac OS XやSafariなど,新しい技術を持つ製品がAppleのガジェット製品系列の主役になっていく。今回のiPod touchの登場でそういう方向性が示されたのだと考える。
もちろんHDDも進化を続けており,決してレガシー技術とは言えないが,フラッシュメモリなどのより新しい技術がガジェット製品において今後のトレンドになっていく。だからこそiPhoneやiPod touchは,データ容量が10分の1以下にもかかわらず,高価格/高付加価値化が図れた。AppleがHDD iPodの名称を「classic」としたのも,そんな時代の移り変わりを象徴している。