2007年7月,エフエム東京(TOKYO FM)は,地上デジタルラジオ放送の番組編成を大幅に改編した。併せて,インターネット上の3次元バーチャルコミュニティーである「セカンドライフ」内にラジオ放送局を開局した。2006年12月に本格的放送を始めて半年で,大幅な番組改編を実施したTOKYO FMのデジタルラジオ戦略を解説する。
受信機の多様化対応とリーチの拡大
TOKYO FMは,他のデジタルラジオ局に先駆け,2006年12月に701ch~703chの3つのチャンネルで3セグメント放送の本格的な編成による放送(「簡易動画も送れる新ラジオ「3セグメント放送」の魅力を創る --- TOKYO FM」参照)を始めた。KDDIがデジタルラジオに対応したau携帯電話(W44S)を発売したタイミングに合わせたものだった。この放送は,デジタルラジオ推進協会(DRP)を通じ「実用化試験放送」の枠組み内で提供しているものである。その後,DPRは2007年4月からの地上デジタルラジオの本格放送開始を発表。現時点までに東京エリアでは,9局が放送を行っている。TOKYO FMの番組改編は7月2日のことで,自身の本格的放送開始から約半年,他社の放送開始から3カ月で,編成の大幅な見直しを手がけたことになる(図1)
図1●TOKYO FM デジタルラジオの7月以降のチャンネル編成
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当初,デジタルラジオ受信機は,auのデジタルラジオ対応携帯電話だけだったため,TOKYO FMは「携帯電話に受信機を搭載してもらう開発を促進するため,携帯電話ユーザーに向けた番組やサービスを用意した」(TOKYO FM デジタル事業本部長 藤 勝之氏)。しかし,デジタルラジオよりも先に本放送を開始したワンセグサービスの視聴者の視聴スタイルが,「外出先での視聴が主」との想定と異なり自宅で視聴しているケースが多いことがわかってきた。
これを裏付けるように,パソコンでワンセグを視聴できるUSB型チューナの販売が伸びており,複数のメーカーがデジタルラジオにも対応したUSB型のワンセグチューナを発売している(表1)。デジタルラジオ対応USBチューナには,Windowsに加えてMacintoshでも利用できる製品も登場している。デジタルラジオの受信形態に,携帯電話以外のバリエーションが広がりつつある。
表1●主なデジタルラジオ対応USBチューナ覧
*1:Windows XP Second Edition
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こうした状況に対応すべく,7月にリスナーや広告主などからの反響やニーズを分析して反映させる形で,大幅な3セグメント放送の番組改編を実施したわけだ。
今回の大幅改編のポイントは,大きく二つある。一つは「携帯電話やパソコンといった受信形態のバリエーションに合わせた番組の提供」であり,もう一つは「外出先や移動中以外に,会社や自宅でもデジタルラジオ楽しみたいというリスナーや,それに伴う広告主からのニーズに合わせたリーチの拡大」である。
「動画付き」と「インターネット同時放送」にチャンネル改編
今回改編した各チャンネルの概要は以下の通りである。
(1)全番組が動画付きの「701ch『ENERGY』チャンネル」
3セグメント・マルチメディア放送の701ch 「ENERGY」チャンネルのコンセプトは,「年齢,ジャンルを超えて音楽を演奏する人々が楽しみ,集い,情報交換を行う専門チャンネル」である。
TOKYO FMは,デジタルラジオの3セグメント放送の特徴である「動画付きラジオ放送」を,これまで「701ch」と「702ch」の一部で実施していた。今回の改編では,「動画付きラジオ放送」をすべて701chに集約。従来から提供していたミュージックビデオやスタジオ風景の動画に加え,ライブ映像や映画の予告編(トレーラー映像)なども放送している(表2)。
(2)インターネットラジオで同時放送する「702ch『MAGIC』チャンネル」
702ch 「MAGIC」チャンネルのコンセプトは,「文化,流行,商業,ビジネスのすべてが凝縮された東京・港区で暮らす人や遊ぶ人,またゆとりを持った大人のためのメディア」。都市生活を女性や子供も安心して暮らせるようにするための話題や情報を提供するチャンネルとしてスタートした。
702ch「MAGIC」チャンネルの最大の特徴は,聴取エリア以外のユーザーに向けたインターネットラジオでの同時放送の実施である。デジタルラジオは,現状では東京と関西の一部都市エリアでしか受信できないため,電波が届かないところにいる潜在リスナーや,自宅や会社でパソコンを使って聴取したいと考えるリスナーに,チャンネルとしてのリーチを拡大する戦略である。デジタルラジオのインターネットラジオによる同時放送は,TBSラジオ&コミュニケーションズの「OTTAVA」とニッポン放送の「Suono Dolce」が,すでに実施している。
このほか,TOKYO FMでは「音声と静止画で構成した良質な音楽の厳選」「番組内全広告をCSR(Corporate Social Responsibility,社会貢献)の“インフォマーシャル”に特化」「平日夜と土日の番組を東京ミッドタウンのサテライトスタジオから生放送」といった点を特徴として挙げている。
表2●7月に改編した各チャンネルの特徴
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