TOKYO FMは,2006年12月1日にデジタルラジオの本格的実用化試験放送を開始した。簡易動画も送れる,デジタル放送ならではの「3セグメント放送」が特徴である。執行役員待遇 デジタルラジオ事業本部副本部長の仁平 成彦氏と,執行役員待遇 デジタルラジオ事業本部 副本部長兼放送部長の小川 聡氏に,TOKYO FMが開始した実用化試験放送の取り組みについて聞いた。

(聞き手は隅倉 正隆=IT・放送技術コンサルタント



TOKYO FMが実施しているデジタルラジオの現状について教えてください。

写真1●TOKYO FMのデジタルラジオ画面
写真1●TOKYO FMのデジタルラジオ画面
簡易動画やデータのダウンロードまで可能。
 TOKYO FMが実施しているデジタルラジオ放送は,3セグメント使った「3セグメント放送」です。3セグメント放送は,他局が実施している1セグメント放送よりも広い帯域を使うため大容量のデータ放送が行えるメディアで,簡易動画(ビデオクリップ)などを送ることができます(写真1)。私たちは,今までの感覚のラジオとは違い,かと言ってテレビでもない新しいメディアを作ろうと考えています。

 音声放送では,701ch,702ch,703chの3つのチャンネルを用意しました(図1)。701chは最新の音楽を簡易動画も使いながら紹介する若者向けの音楽放送チャンネルです。702chは70年代,80年代のヒット曲を中心にクラシック・ジャズまで年代にとらわれず,良質な音楽を紹介する大人も楽しめるチャンネルです。最後の703chは“NEWSチャンネル”です。メディアの使命として,ニュースと天気予報を提供するチャンネルです。現在このNEWSチャンネルでは,音声放送で4時間,データ放送では10時から19時までの9時間放送しています。

 デジタルラジオの編成上の考え方としては,「メディアとしての多様性を回復させたい」と言うことを念頭に置きました。これまでの放送は,話題になっているものやヒットしているもの,スポンサーが集まりやすいもの,そしてメディアにおけるレーティング(ラジオでは聴取率)を基準にした番組作りが主流になっています。こうした中でデジタルラジオという新しいメディアを立ち上げるにあたって,クラシックであったりジャズであったり,また旧譜や確実にリスナーをつかんでいる曲など音楽の“ロングテール”までをきちんと送り届けようということです。これが,結果的には多様性のある価値観に対応したチャンネル作りにつながると考えています。

図1●デジタルラジオにおける TOKYO FMのチャンネル編成
図1● デジタルラジオにおける TOKYO FMのチャンネル編成
3セグメント放送が特徴。1セグメントで音声+データ放送の3チャンネルを放送する。さらに拡張2チャンネルで簡易動画を提供するほか,多様なサービスを検討している。
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 2007年4月以降もこの考えをベースにして,大枠としては現行の編成のままで行こうと考えています。ただし,リスナーのリーチをどこまで広げられるか,端末を普及させるための方策をどのように盛り込んでいくかなどを考慮し,番組の内容面を見直すことはあると思います。当然,広告モデルでもあるので,ビジネス面との整合性を取りながら番組改編を進めたいと考えています。

 現在までにデジタルラジオを受信できる携帯電話も増え始め,徐々にリスナーからのメールが増えています。デジタルラジオに接する人が増えるような番組やチャンネル編成の整備が検討課題です。そして,よりデジタルラジオを広めていくにあたって,起伏を付けた編成をしていきたいと考えています。現状ではリピート番組(再放送)も何割かありますが,この扱いについても検討しています。

従来のFMラジオとデジタルラジオでは聴取者の傾向に違いはありますか?

 2006年12月から携帯電話の受信端末向けに放送してきましたが,従来のFMラジオと聴取の傾向にはっきりとした違いが出ています。たとえば,デジタルラジオでは昼休みの時間帯が一つのゴールデンタイムであることが,放送を始めてからの発見です。今までのFMラジオでは,朝からお昼前までの午前中が大きなボリュームゾーンになっています。午後の時間帯もゴールデンタイムです。しかし,昼の時間帯のレーティングは,どこの局も下がるんです。ところがデジタルラジオの場合,正午に一つの山が来ます。また,夜7時以降から伸びはじめ,深夜にかけてのリスナーが多くなります。この時間帯もゴールデンタイムに該当すると思われます。

 こうした聴取傾向に応じて,昼休みの時間帯に動画を使った1時間の帯番組を用意しました。この番組にはリスナーからのメールが多く,聴取傾向に合致していると判断しています。現状のデジタルラジオのリスナーは,携帯電話を端末としたモバイルユーザーということもあって,移動しながら聞いてもらうケースが多いでしょう。そうした聴取状況に対しても,コンテンツにはまだまだ開発の余地があると考えています。

 これらの経験を基に,今あるものを土台にして,チャンネルの集合体である3セグメントをどう使いこなしていくのかが,これからの作業になってくると思います。