各メンバーの日々の進捗を管理するのは「細かすぎ」て管理負荷が高く,マスタースケジュールを基にすると「粗すぎる」。この溝を埋めるために,PMOが独自の進捗レポートを作成してみてはどうだろうか。その要となる情報は,WBSで定義した作業間の「依存関係」だ。ここだけを抜き出して1ページで図示すれば,クリティカル・パスを管理するより,はるかに実践的な進捗管理ができるだろう。

高橋信也
マネジメントソリューションズ 代表取締役


 PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)が把握しておくべき進捗状況について,「細かすぎず,粗すぎず」という点が重要なのは,「第7回 進捗報告が形骸化していないか?」でもお話しました。最も細かな作業というと,個々人で把握している日々の作業ですが,プロジェクト全体の作業を把握するためにそこまで情報収集は行いません。あるメンバーに作業負荷がかかり過ぎている場合などに,日々の作業状況をチェックすることもありますが,通常の進捗把握のためにそこまで行うことはないでしょう。一般的にはWBS(Work Breakdown Structure)として作成された作業スケジュールに対する進捗だと思います。

 ご存知とは思いますが,WBSを一言で言うと,「実施すべき作業を最小単位にまで分解し,階層化したもの」です。初めにプロジェクトで作成すべきアウトプットから必要な作業を洗い出し,それらを細かく分解していきながら,最終的に構造化していくのです。

 だれにでも分かりやすい例として,「カレーライスを作る」という作業を考えてみましょう。大きな作業単位としては,「1.計画」,「2.買出し」,「3.調理」と分けられます。次に「1.計画」は,「1.1.レシピ作成」「1.2.材料洗い出し」「1.3.予算作成」と分解できます。さらに「1.1.レシピ作成」は,「1.1.1.インターネットで検索」「1.1.2.雑誌で調査」「1.1.3.母親へヒアリング」と分解が可能です。ここまでのところを書き出すと,次のようになります。

1.計画
 1.1.レシピ作成
   1.1.1.インターネットで検索
   1.1.2.雑誌で調査
   1.1.3.母親へヒアリング
 1.2.材料の洗い出し
 1.3.予算作成
2.買い出し
3.調理

 「1.1.1.インターネットで検索」をより細かく分解することも可能です。例えば,「どのサイトで,どんな手順で検索するのか」というところまで分解できますし,「レシピを印刷する」という作業を追加できるとは思います。しかし,このケースでは,WBS上でそこまで記述する必要はありません。

プロジェクト全体の進捗に影響する作業は何か?

 ここで,PMOの話に戻りましょう。プロジェクト全体の進捗を把握するためには,「1.1.レシピ作成」の階層レベルが適当なのでしょうか,それとも「1.1.1.インターネットで検索レベル」が適当なのでしょうか。PMOとして,ときどき判断に悩むことがあります。特に小規模のプロジェクトであれば,「1.1.1.」のレベルで把握することはできますが,プロジェクトメンバーが20人以上になってくると,細かすぎて逆によく分からないということもあります。

 「ざっくり,ポイントだけ教えてほしい」というプロジェクトマネジャもいます。その際に,最も粗いスケジュールとして,プロジェクト全体のプランを示したマスタースケジュールを用いて説明すると,今度は「ざっくり過ぎるよ」ということにもなります。

 WBSを用いたスケジュール作成の際に重要な点は,作業ごとの「依存関係」を明確にすることです。前述したカレーライスの例で言うと,「1.1.レシピ作成」が遅れれば「1.2.材料買い出し」が遅れ,「1.計画」が遅れ,プロジェクト全体の進捗が遅れることにつながります。

 「1.1.1.インターネットで検索」「1.1.2.雑誌で調査」「1.1.3.母親へヒアリング」の3つは,担当者がそれぞれ異なる場合,依存関係はありません。それぞれが同時並行で進みます。

 PMOとして最低限把握すべき進捗状況は,この「依存関係にある作業」の部分です。プロジェクト全体の進捗に影響を与え,時間的に余裕のない一連の作業をクリティカル・パスと呼んだりしますが,システム開発の現場では,しばしば「クリティカル・パスそのものがよく分からない」という問題が起こりやすいものです。

 クリティカル・パスの把握も重要ですが,作業間,組織間で依存関係にある作業を洗い出し,マスタースケジュールとWBSの間をつなぐ進捗レポートをPMO側で作成することの方が実践的と言えます。この進捗レポートを作る際は,プロジェクト管理ツールやExcelを使用するよりも,PowerPointのようなプレゼンテーション・ツールを使用した方がビジュアルで分かりやすいでしょう。

 進捗レポートの体裁は,週単位または月単位の進捗状況を1ページのドキュメントとしてまとめます。縦軸に各組織(チームなど)をとり,横軸を時間軸にします。その枠の中で,作業間,組織間で依存関係にあるタスクのみを記述します。PMO側でこの資料を作成することにより,全体進捗の把握とマネジメント・レポートが同時に行えるため,大変効果的です。


高橋信也(たかはし しんや)

 1972年福岡生まれ。修猷館高校を卒業した後,上京。上智大学経済学部卒。ゼミは組織論,日本的経営の研究。大学卒業後,アンダーセン コンサルティング(現アクセンチュア)入社。CやC++によるプログラミングから業務設計まで幅広い工程を経験した後,2001年よりキャップジェミニのマネジャとして経営管理・業績管理のコンサルティングプロジェクトに携わる。

 コンサルタントとしての外部の目からだけではなく,内部の目でマネジメントを経験したいとの思いから,SONY Global Solutionsへ入社。その当時,最年少プロジェクトマネジャとなる。グローバルシステム開発プロジェクトのPMOリーダーとして活躍。インドにおけるオフショア開発を経験。

 コンサルテーションから,自社開発のソフトウエア提供,改革実施後のチェンジマネジメントまで,「知恵作りのマネジメント」を支援するマネジメントソリューションズを設立し,現在に至る。連絡先は info@mgmtsol.co.jp