各チームからの進捗報告は細かすぎても分かりづらく,粗すぎると状況を的確につかめなくなる。では,プロジェクトマネジメントに本当に使える報告レベルとは何か。これを指示し,進捗会議の改善を行うこともPMOの役割である。

高橋信也
マネジメントソリューションズ 代表取締役


 「月曜に行われる進捗報告会議のために土曜日に出勤し,しかも,こと細かに進捗報告書を書いて報告しているのに,プロジェクトマネジャはあまり中身を聞いてないよな。こんな報告書を作って,本当に意味があるのだろうか…」。

 土曜出勤で進捗報告書を作っている方は稀かもしれません。しかし,進捗報告書の作成に多くの時間を費やすわりに,必要性が薄いと感じる方は多いのではないでしょうか。プロジェクトマネジャ側も,「リーダーがたくさん報告をしてくれるのはいいけど,問題点がよく見えないな…。まぁ,一応スケジュール通りだし,大丈夫ってことかな」となりがちです。逆に「報告が粗すぎてよく分からないから,もっと詳しく書いてほしい」という場合もあるでしょうし,「細かく報告している割に,重要点は一切書かれていない」と思う場合もあるでしょう。

そもそもプロジェクトでは意思疎通が難しいもの

 古今東西,マネジメントに対する報告は常に頭を悩ますものです。「ほうれんそう」(報告,連絡,相談)を社内ルールとして掲げている企業も多く,会社のカルチャーとして根付いているのであれば,スムーズに意思疎通を図れるでしょう。しかし,プロジェクト型組織の場合,個々のプロジェクトは生まれて間もないため,そもそもカルチャーが熟成されにくい。複数の会社からメンバーが参画している場合は,特に意思疎通が難しくなります。

 プロジェクトで進捗報告の定型フォームを作成し,定例の進捗会議を行ったとしても,通り一遍の報告会議になってしまうことが少なくありません。その穴を埋めるための会議が,公式・非公式にかかわらず多く発生することもあります。プロジェクト組織内のコミュニケーション・パターンを単純に1対1でとらえた場合,例えば3人の組織であれば,3通りしかありませんが,30人の組織になれば435通り,100人になると4950通りにもなります。

 それほど多くの会議を設けることはないでしょうが,コミュニケーションの多さはお分かりになると思います。PMOには,コミュニケーションの効率を上げるために有意義な定例会議を開く責務があります。では,先ほどの例にあるように,プロジェクトマネジャが知りたいポイントとは何でしょうか。

 報告すべき観点は,品質・コスト・進捗(納期)に影響するものです。それぞれについて詳細な状況を説明するのではなく,まずは最も影響のある問題点と解決の状況および方向性について報告すべきです。プロジェクトマネジャの意思決定に必要な情報を絞り込み,各チームから報告してもらうよう,うまくファシリテーションするのはPMOの役割です。

分かりやすく,共有しやすい進捗報告書とは?

 また,情報を絞り込むところまではうまくいっても,報告書に「何の問題もありません」の一言だけ記載されている場合もあります。その場合,本当に問題ないのか,PMOも客観的な状況を踏まえつつ,報告者に質問すべきです。もちろん,尋問ではありませんので,状況をかんがみて言葉を選ぶ必要はありますが。

 また,このようなケースもあることから,メールのみのコミュニケーションは避けた方がよいと思います。やはり直接会って話し合うことは,相互のコミュニケーションを密にする上で重要です。

 定型的な進捗報告書を用いずに,各チームが好き勝手なフォーマットで報告書を書いているプロジェクトもあります。プロジェクトの立ち上げ時であればよいかもしれませんが,マスタースケジュールがすでに作成され,予算も付いている場合,WBS(Work Breakdown Structure)や課題管理表とひも付いている報告書が最も分かりやすく,共有化しやすいものになります。報告書の作成が容易であるに越したことはありませんが,上記のような報告書を基に会話する方が,格段によい結果を生むでしょう。

 多くのプロジェクトで定例の進捗報告会議は形骸化しやすく,無意味な会議になってしまう傾向にあります。しかし,ポイントを絞って効率よく報告書を作成することで,プロジェクトの状況はより見えるようになり,マネジメントの生産性は格段に向上します。また,コミュニケーションも効率化されるので現場の生産性が向上します。このような会議や報告の改善もPMOの責務の1つです。


高橋信也(たかはししんや)

 1972年福岡生まれ。修猷館高校を卒業した後、上京。上智大学経済学部卒。ゼミは組織論、日本的経営の研究。大学卒業後、アンダーセン コンサルティング(現アクセンチュア)入社。CやC++によるプログラミングから業務設計まで幅広い工程を経験した後、2001年よりキャップジェミニのマネジャとして経営管理・業績管理のコンサルティングプロジェクトに携わる。

 コンサルタントとしての外部の目からだけではなく、内部の目でマネジメントを経験したいとの思いから、SONY Global Solutionsへ入社。その当時、最年少プロジェクトマネジャとなる。グローバルシステム開発プロジェクトのPMOリーダーとして活躍。インドにおけるオフショア開発を経験。

 コンサルテーションから、自社開発のソフトウエア提供、改革実施後のチェンジマネジメントまで、「知恵作りのマネジメント」を支援するマネジメントソリューションズを設立し、現在に至る。連絡先は info@mgmtsol.co.jp