日経コンピュータ2007年2月5日号の記事を掲載しています。原則として執筆時の情報に基づいており現在は状況が若干変わっている可能性がありますが、BCP策定を考える企業にとって有益な情報であることは変わりません。最新状況は本サイトで更新していく予定です。

 [導入1]で紹介したセイコーエプソンが取り組んだサーバー集約は、リスクを“見える化”したのと同時に、コストというハードルを下げる役割もしている。

コスト削減とBCP対応を両立させる

 同社は2004年末まで全国数カ所の拠点で2000台ものサーバーを運用していた。年間の運用費は40億~50億円。これを2007年3月までのスケジュールでデータセンター1カ所に集約。サーバーの数を半減させ、年間の運用費を20億~30億円まで押さえ込む計画だ。経営戦略室事業基盤サポート部兼情報化推進サポート部の澤田隆治部長は、「これがBCPの原資となる」と明かす。

 来年までにはユーザー認証など各システムで共通に使えるシステム基盤を整備して、それらを2重化。さらに重要なシステムは別のバックアップ拠点でも稼働させて2重化する計画だ。

図7●各社がBCPに取り組む際にシステム面で考慮する側面と効果
コストの捻出に向けた工夫が多い
 やり方は様々ながら、各社とも何らかの方法でITに関するコスト削減を実現して費用を捻出し、BCP実現の対策に投入している(図7)。

 セイコーエプソンと同様にサーバー統合とメインフレームの撤廃で、コストの削減と、システム2重化などのBCP対応を実現したのがアステラス製薬だ。情報システム本部情報システム企画部の須田真也課長は、「必要な技術がそろい、導入のコストも下がってきたことが、BCPへの対応をしやすくしている」と語る。

 須田課長は旧山之内製薬でWindowsをメインにしたシステムのバックアップ・センターを用意しようとしていたが、「2000年頃から数年は、技術的な問題でバックアップ・システムの運用を引き受けてくれるデータセンター事業者はなかった。無理にお願いしても、こちらが出せるコストの範囲内では難しかった」(須田課長)。

 それが今や、バックアップ技術は進化した。メインフレームを撤廃したことでコストを浮かし、自社でバックアップ・センターを作ることができた。2005 年4月の藤沢薬品工業との合併で、両社が保有していたデータセンターをうまく活用できたという恵まれた面もあった。しかし、運用を引き受けてくれる外部の業者が登場したことが、実現を容易にしたという。

 サントリーも2007年3月までにメインフレームを撤廃し、億単位の費用を捻出。これを情報システムをメインに据えたBCP対策に割り当てる。

標準化徹底で代替コストを引き下げ

 LSIや電子部品を製造するロームは、データセンターから、その中のシステム、工場、部品納入業者まで、すべてを2重化するほど、BCP実現にコストをかけている(図8)。

図8●ロームは情報システムだけでなく、工場、取引先のすべてを2重化している
情報システムは高い冗長性をより低いコストで実現する

 戦略情報システム部の久保豊部長は、「BCPを考慮したシステムでないと経営陣が認めてくれないから」と、“あくなき2重化”に取り組む理由を語る。同社しか供給できない製品も多いため、操業停止が、顧客である完成品メーカーに大きな影響を与えてしまうからだ。だからといって経営陣は、BCP実現のために湯水のごとく投資することを許すわけではない。そこで、様々な工夫でコスト削減に取り組んでいる。

 一例が、サーバーに汎用のパソコン・サーバーを採用したこと。センター内のクラスタリング用や、バックアップ・センター用に大量に用意しやすいことが理由だ。故障時には即座に自分たちで修理できるよう、「マザーボード以外はすべての部品の予備を持っている。部品はハード・ディスクの回転数やCPUの周波数などのスペックにも注意している」(久保部長)。

 工場内の工業用プリンタについても自前の標準化をしている。「三つのメーカーの製品を使っているが、全く同じ印字ができるように手を入れた」(同)。プリンタが地震などで破損しても、どのメーカー製でも代替できるようにとの考えだ。