日経コンピュータ2007年2月5日号の記事を掲載しています。原則として執筆時の情報に基づいており現在は状況が若干変わっている可能性がありますが、BCP策定を考える企業にとって有益な情報であることは変わりません。最新状況は本サイトで更新していく予定です。

 BCPの策定は、全社を挙げて取り組まなければ意味がない。顧客からの注文を受け付けるコール・センター、調達や生産、商品を届ける物流といった各部門の連携があって初めて、事業の継続が実現される。どの業務を優先的に復旧させるのか、そのためには何を準備しておくのかは、全社横断的に情報を整理し、経営判断を含めなければ最終決定を下すことはできない。

 ただ、BCPを策定する際には、好むと好まざるとにかかわらず、IT部門が中心的な役割を担うことになるのは間違いない。最大の理由は、今のビジネスはITに大きく依存していること。IT部門は全社横断的に事業を見ているという点も、理由に挙げられる。

 さらに、策定したBCPを実現可能なものにするための二つのハードルを下げられるのは、IT部門だけである。

 二つのハードルとは、時間とコストだ。BCP実現のための対策は、ITに関係する部分に最もコストと時間がかかる。そこを抑えれば、全体のコストと時間のハードルを下げることにつながる。これは、全社的なBCPの策定がまだ進んでいないなら、IT部門は先に手を打っておくべきともいえる。「いざ全社で」となってから対応しようと思っても、それからでは遅い。

 今回取材した各企業でも、IT部門が中心的な役割を担っている。全社的な動きはなくても、先手を打って対策に乗り出すIT部門もあった。

 二つのハードルはどの程度高いのか。どうやれば低くできるのか。それらを「導入編」として見ていこう。

ITが使えなければ宝の持ち腐れ

 野村証券は2003年3月、東京23区内に代替オフィスを用意した(図4)。2001年の米同時多発テロで、代替拠点の重要性を痛感したことが理由だ。

図4●野村証券は災害時に事業を継続するためのオフィスを用意している
普段は使用せず、パソコンや電話、ファクシミリなどを用意。アプリケーションやパッチは定期的に更新している

 100人以上が執務できる代替オフィスでは、東京・日本橋の本社や大手町にあるディーリング・ルームなどが使えなくなっても業務が遂行できるよう、様々な準備を整えている。最大のポイントは、IT環境を常に最新の状態にしていることである。アプリケーションからドライバ・ソフトに至るまで、1カ月に1回はパソコンを自動で立ち上げて更新。現地で稼働テストを実施している。「今や、IT環境を整備しなければ、代替オフィスだけあっても無意味」(中村 CIO)との認識からである。

 もちろん、各システムが稼働しているデータセンターへの対策も怠りない。関東にあるデータセンターで対策を採ってきたほか、現在、西日本にバックアップ拠点を新設中だ。今年中には稼働を始める。

 独製薬会社べーリンガー・インゲルハイムの日本法人は、バックアップのサイトで基幹系システムを立ち上げると同時に、その場で物流部門もパソコンを使い業務をすることにしている。

 こうした、システムがなければBCPを実現できないという状況は、業種、企業規模を問わず共通している。基幹系システムだけではない。昨年11月に沖縄にバックアップ・センターを構築したカルビーは、メール・サーバー群は沖縄をメインとし、既存の川崎センターをバックアップとした。戦略グループIT企画グループの梶ヶ野恭行リーダーは、「もはや電子メールがないと業務は成り立たない」と言い切る。

 課題は、システム面の対策はコストと時間がかかる点である。例えば野村証券が新設のバックアップ拠点に投じるコストは100億円を優に超える。オープン化の進展で数百台のサーバーを運用している企業も珍しくない状況では、システム面のリスクを洗い出すだけで大変な時間がかかる。さらに、アーキテクチャ面から見直し、BCPが変更されても柔軟に追従できるシステム環境を整えようと考えたら、数年のレンジで取り組まないと不可能だ。