平成19年6月19日に総務省が「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会 中間取りまとめ」を発表しました。内容としては,通信と放送に関係する現行の各法律を「情報通信法(仮称)」に一本化するという方向性を打ち出したものです。今回は,この中間取りまとめを取り上げたいと思います。

 この中間取りまとめは,

  • デジタル・IPによる情報通信産業の構造変化を踏まえ,法体系を「縦割り」から「レイヤー構造」へ転換
  • 現在の通信・放送法制を「情報通信法(仮称)」として一本化

を行うものとして,整理されています(注1)。そして,通信・放送法制の基本理念として,

  • 「情報の自由な流通」(通信・放送における表現の自由)
  • 「すべての国民が情報通信技術の恵沢をあまねく享受できる社会の実現」(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法第3条)
  • 「安全・安心なネットワーク社会の構築」

を取り上げています。

 この基本理念自体には,特に異論はないでしょう。新法制を考える上でのポイントは,これらのバランスをどう図るかということになります。

通信と放送の区別は実態に合わなくなっている

 現行法では,放送と通信で基本的に規制のあり方が大きく異なります(注2)。中間取りまとめでも言及しているように,通信には「通信の秘密」があるため,制度上,法規制によるコンテンツへの関与を原則として排除しています。

 もちろん「放送」に関しても,表現の自由を確保しつつ,公共の福祉のバランスを図る方向で法規制を行っています。表現の自由についての法規制は,他の自由と比較しても限定的であるべきと考えられているからです。しかし,通信の秘密についての法規制の排除は,それ以上に厳格に考えられているのです。

 ただ,このような切り分けはネットワーク化の進展にともなって,ズレが大きくなっています。「通信の秘密」という考え方自体,憲法に由来する(注3)もので,郵便,電話を念頭に置いています。電子メールまでは,「通信」の概念の範疇(はんちゅう)ですが,ストリーミング配信などはユーザーにとって放送との本質的な違いはありません。「通信」と「放送」といった“配信手段”による区別が実態に合わなくなっていることは,言うまでもないでしょう。

 中間取りまとめ7頁では「(1)基本的な考え方」が示されており,そこでは,以下のように指摘しています。

インターネット上のコンテンツ配信については,公然性を有し,放送同様電子メディアとして強力な伝幡力がある場合であっても,「通信」としてコンテンツ規律を制度上課されていないことは,違法・有害コンテンツ流通の拡大を招くなど,公正かつ適切な情報流通を損なうおそれがある。

 中間取りまとめは,この指摘の前提として,放送に関する放送法等の法制は成熟した規律体系である,という認識を示しています。一方,通信に対しては,公然性を有し,電子メディアとして放送同様の強力な伝幡力がある場合であっても,このような規律はありません。そこに問題があるというのが,引用部分の言わんとするところでしょう。言い換えれば,放送類似コンテンツの規律は,配信手段が通信,放送のいずれであっても,「放送」の枠組みの規制が基本的に妥当であるとの認識があるようです。

 このような認識に基づき,コンテンツ配信サービスについて,以下のように分類しています。

具体的には,「公然性を有する通信」のうち現在の放送と類比可能なコンテンツ配信サービスについて,現在の放送を含め「メディアサービス(仮称)」として一体化し規律することとし,その他の公然性を有する通信を「公然通信(仮称)」として違法・有害コンテンツ流通対応を制度化することを検討すべきである。

 この分類では,まず,私信など特定の人物との通信と,不特定多数に公開することを前提とする「公然性を有する通信」を分けています。特定の人物との通信については,現在と同じく通信の秘密を原則的に保護する方向で考えているようです。そして,「公然性を有する通信」の中に「メディアサービス(仮称)」と「公然通信(仮称)」の二つの類型ができることになります。

 このうち「メディアサービス(仮称)」は,現在の放送と,放送と類比可能なコンテンツ配信サービスを含むサービスを指しています。「公然性を有する通信」から「メディアサービス(仮称)」を除いたものが「公然通信(仮称)」であり,ホームページなど公然性を有する通信コンテンツがこちらのカテゴリーに入るようです。

 「メディアサービス(仮称)」は,さらに「特別メディアサービス(仮称)」と「一般メディアサービス(仮称)」に類型化されます。「特別メディアサービス(仮称)」は,地上テレビジョン放送及びそれに相当するもの,「一般メディアサービス(仮称)」は,衛星放送(CS),有線テレビジョン放送,IPマルチキャスト配信などがその対象として想定されているようです。

 このような類型に分類した上で,それぞれ異なる規制(あるいは規制の緩和)を行うというのが基本的な方向性です。

 次回は上記分類ごとに,どのような規制の方向性を示しているのかを,もう少し詳しく見ていきます。

(注1)「中間取りまとめのポイント」の3頁目参照
(注2)通信と放送における規制の違い(著作権)については,本コラムの「放送と通信の融合(1)」参照
(注3)憲法21条2項「通信の秘密はこれを侵してはならない」


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。