サーバーの“リソース・オンデマンド”を,これまで述べたような仮想化技術やグリッド技術ではなく,ブレード・サーバーを使って実現するサービスも登場してきた。処理性能が不足した時に,動作するブレードの数を増やすことで,システム全体の処理性能を高める仕組みである。IIJテクノロジーやサヴィス・コミュニケーションズなどがサービスを開始している。

 これらのサービス事業者が仮想化技術やグリッド技術を使わないのは,「認知度が向上してきたとはいえ,現時点では安定性や性能の面で不安視するユーザー企業がまだ少なくない」(IIJテクノロジー 営業企画部の吉川俊 部長)ためである。そこで,サーバーそのものの数を変えることによって,必要なサーバー・リソースを必要な分だけユーザーに提供する仕組みを用意した。ユーザーは,サーバーの処理性能不足への対策に多くの時間を割く必要がなくなる。

ハード構成が共通という利点を生かして増設作業を効率化

 ブレードを使ったリソース・オンデマンドのサービスの主なターゲットは,Part 2Part 3で紹介したVPS(仮想プライベート・サーバー)サービスと同様,インターネット向けのWebサイトを運用する企業や,新システムの開発環境を必要とする企業である。通常時は一定台数のサーバーを稼働させ,より高い処理性能を必要とする繁忙期になると,利用するサーバーを一時的に増やす,というやり方だ(図5)。

図5●高い処理性能が必要な月だけブレード・サーバーの割り当てを増やす
図5●高い処理性能が必要な月だけブレード・サーバーの割り当てを増やす

 最大の特徴は,ハードウエア構成がほぼ共通している,というブレード・サーバーの利点を生かし,従来のホスティング・サービスに比べて短期間でサーバーを調達したり設定したりできる体制を整えている点だ。サーバーを追加する際には,ソフトウエアの設定情報を予備のブレードにコピーし,起動するだけでよい。そのため,追加導入を決めてから立ち上げるまでの時間を節約できる。従来のホスティング・サービスでは,導入時期によってサーバーのハードウエア構成や処理性能が異なるケースが多いため,こうはいかない。

 処理性能の需要に基づくブレードの追加導入など,一連のサーバー運用・管理作業を効率化するために,サービス事業者はプロビジョニング・ツールと呼ばれるソフトウエアを使っている。例えば,IIJテクノロジーがこの8月1日に開始した「IBPS サーバマネジメントサービス」では,日本ヒューレット・パッカード(HP)のブレード・サーバーと,オプスウエアジャパンのプロビジョニング・ツールを使っている。「早ければ1日でサーバー増強作業は完了する」(IIJテクノロジーの吉川部長)という。

世界規模でブレードを“プール”

 サービスに使うブレードが共通であれば,より高い処理性能が必要になったときのために確保(プール)しておくブレードの種類も単一でよい。サヴィス・テクノロジーは,世界26カ所でデータセンターを運用し,世界規模でブレード・サーバー(イージェネラ製)をプール化している。世界中どの拠点でも,使用するブレード・サーバーの種類が同じであるため,拠点間でブレードを融通し合うことができる。これにより,サーバーの調達期間を大幅に短縮できた。「東京にもブレードの在庫を確保しているが,もし在庫が不足した場合でも,2週間あれば別の拠点から調達できる」と,山東勝徳代表取締役は断言する。

 ただし,ブレードを使ったリソース・オンデマンドのサービスは,仮想化技術を使ったサービスと比べると,サーバー増設に時間がかかる。負荷に応じたサーバー増強の自動化も,今のところは実現できていない。この点についてIIJテクノロジーの吉川部長は,「ユーザー企業の多くは,業務の繁忙期や顧客にキャンペーンを打つタイミングなど,サーバーの処理負荷が高まるタイミングや負荷の大きさを把握しているため,月単位でサーバーを増減できれば問題ない」と指摘する。当面は,これらの企業をターゲットにする方針だ。

 ブレードを使ったリソース・オンデマンドには,もう一つ課題がある。すでに述べたように,ブレード追加の効率や互換性などを考慮すると,特定メーカーの製品に縛られる危険性がある,ということだ。もちろん,IIJテクノロジーやサヴィスもこのことを認識しており,Part 1で紹介したような,仮想化技術を使った高度なオンデマンド・サービスの研究開発にもすでに着手している。