プロジェクトで次々に発生する「課題」。これらを的確に管理して対処していかないと,プロジェクトが頓挫するか,品質の低い情報システムを生み出してしまう。だが,課題管理を安易に始めると,課題の中に「リスク」や「ToDo」「備忘録」的なものが混在してしまい,見るに値しない課題管理表になる。このような“ゴミだらけ”の管理表では,とてもマネジメントなどできない。
高橋信也
マネジメントソリューションズ 代表取締役
プロジェクトの課題管理について,会議中,次のようなやり取りを長々と言い合う場面に出会ったことはないでしょうか。
プロジェクトマネジャ:「Aチームの課題は総件数が152件。未決件数80件中,期日遅れが40件になっている。プロジェクトが始まって2カ月しかたっていないのに,どうしてこれほど遅れが生じているのか?」
Aチームリーダー:「重要な課題は3件と認識しているのですが,それ以外は各チームメンバーが記入しているものなので,あまり重要ではありません」
PMO:「重要でなくても,各チームメンバーの進捗を阻害している課題,例えばユーザーが要件を決めてくれない,成果物をレビューしてくれない,といった課題はチームリーダーが率先して対処すべきではないのか?」
Aチームリーダー:「私は直接そのような話は聞いていないですし…」
課題の総件数が152件となっていますが,中身を見たら,各チームメンバーの備忘録であったり,リスクとして感じていることだったり,やるべき作業項目(ToDo)だったりして,とにかく“ごちゃ混ぜ”になっていました。その結果,チームリーダーはほとんど課題管理表を見なくなってしまいました。上記の会話で,Aチームリーダーが歯切れの悪い話をするのは,そのせいだったわけです。
現場ではPMOが指示した課題管理のテンプレートを使っているものの,中身の記述レベルが不徹底だったため,課題管理が形骸化していました。せっかく使っている課題管理表も,うまく生かされていません。また,課題解決を期待して起票しているチームメンバーも,このような扱いが続けば,次第に課題を挙げなくなってしまうでしょう。このような問題は,課題,リスク,ToDoを明確に区別しきれていないことが一因となっています。
本来管理すべき「課題」とは何か
このような問題を避けるために,PMOは何をすべきでしょうか。課題管理を徹底する上で非常に基本的なことではありますが,課題,リスク,ToDoの違いを,メンバー全員に理解してもらうことから始めていく必要があります。PMOはプロジェクト全体にわたる管理プロセスの定着化に責任を持ちますので、テンプレートを提供するだけではなく、運用上の手ほどきを担うべきです。
「課題」の定義はいくつかの観点により異なるでしょうが,プロジェクトマネジメント上,最も分かりやすい定義の仕方は「進捗および品質を阻害している原因」と理解するのがよいでしょう。単純な例で言うと,タスクAの進捗が遅れているという問題があった場合,原因が要員の不足にあったとするなら,「要員不足のため進捗が遅れている」ことが課題となります。
進捗が遅れているとか,品質に問題があるという表現で課題管理表に記述してしまうと,原因がつかめず,対応策が出てこないという事態に陥ってしまいます。これでは,いつまで経っても課題を完了できない可能性があります。必ず,「問題事象→原因究明→課題化→対応策」といったステップごとに考えていく必要があります。
整理した結果,対応策まで見出せたらそれがToDoとなるものがあります。しかし,課題管理はToDoをメインに管理していくのではなく,あくまでも課題を管理していくものです。ToDoは,課題とは別に管理すべきです(いわゆる「ToDo管理」)。
ToDo管理は,課題から導き出されたものだけではなく,やるべきタスクを忘れないようにチェックしていく備忘録的な目的で,各チームリーダーが自分のチーム管理の一環として実施していくことが多いようです。
なお,リスクとは将来課題になりそうな事柄のことを指します。リスク管理上の注意点に関しては,「第8回 “リスク感度”を合わせ,問題発生時に一丸となる」にて説明しています。
一口で言うと,課題は「過去に起こった問題の原因」,ToDoは「現時点でやるべき仕事」,リスクは「将来起こる可能性のある問題」と言えます。このように性格が違うものをごった煮にして管理しないように気を付けながらプロジェクトを推進していくと,プロジェクトの可視化が上手くいくようになると思います。
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