プロジェクトの「リスク」と一言で言っても、それに対する感じ方は人それぞれ。それをあいまいなままにしておくと、いざという時、プロジェクトの足並みがそろわない。では、プロジェクトマネジメント上のリスクはどのようにマネジメントされるべきだろうか。
高橋信也
マネジメントソリューションズ 代表取締役
Aチームリーダー:「地震なんてそうそう発生しないし、発生したとしても自分は大丈夫。人間、そう簡単には死なないもんだ」
Bチームリーダー:「そろそろ地震が起こるだろう。大地震でも崩壊しない家を建てて、保険にも加入して、準備万端にしておこう」
Cチームリーダー:「もしかしたら地震が発生するかもしれない。とりあえず、水と食料は用意しておこう。そうそう、帰宅支援マップも買っておかなくちゃ」
もし地震が起こったら…。冒頭の例のように、将来発生するかもしれない出来事への考え方は千差万別です。どれくらいの確率で発生すると感じているか、いざ事が起こったときのためにどれだけ準備をしておくかなど、本当に人それぞれでしょう。
プロジェクトで、リスク感度が“人それぞれ”では危ない
日常生活に関することであれば、それこそ個人の責任において“人それぞれ”でも構いませんが、プロジェクトではメンバーで認識を合わせ、プロジェクトとして準備をしておく必要があります。そこで通常、リスク管理表を作り、リスクの発生確率、影響度、対応策を検討します。しかしながら、個々のリスクについて検討すると、リスクに対する感度、つまり受け取り方が人によって異なるため、例えば次のような意見の食い違いが生じます。
Aチームリーダー:「ユーザーは繁忙期だし、ユーザーテストに時間が取れないかもしれない。プロジェクトマネジャ経由で各部門に依頼を出しておいてもらおう」
Bチームリーダー:「ユーザーは繁忙期だけど、ユーザーテストに必要なメンバーは出してもらえるだろう。実際にテストを開始してみて、参加率が低かったら対応を検討すればいいと思う」
このような場合、PMOはプロジェクトマネジャ、Aさん、Bさん、その他のリーダーを一同に集め、「繁忙期のユーザーがどれだけプロジェクトに参画するか」について、どう思うかを話し合い、プロジェクトとしてリスクへの感度を合わせるようにします。
このミーティングでは、それぞれが感じていることを共有することが大事ですので、満遍なく意見を集めていくことがPMOに求められます。PMOはあえて真逆の意見を出してみるのもいいでしょう。また、テーマを決めず、各メンバーが感じているリスクについて自由に意見を出してもらい、メンバーの懸念事項を共有することも大切です。
なぜリスクが発生するのか論理的に検証し、全員で意識合わせを
多くのプロジェクトでは、「リスクの発生確率が80%なのか、60%なのか」などを議論し、管理上の落とし所を探す議論をしています。このような議論では、管理するための“決め事”の議論を行っているだけで、残念ながら対応の方向性について意識合わせをしているわけではありません。プロジェクト内での意識合わせをせずにいると、いざという時、プロジェクトの足並みがそろわない可能性があります。
決め事を議論するよりも重要なことは、なぜそのリスクが発生するのかについて、具体的な個々人の経験、事実を積み上げた「論理的な検証」です。論理的に積み上げた議論であれば、各メンバーのリスク感度を合わせ、リスクに対して足並みをそろえることが可能となります。この「足並みをそろえる」というお膳立てをし、定期的にリスク感度を合わせる場を設けることが、まさにPMOの役割となります。
これから発生するかもしれない出来事への事前対応が可能となるのはもちろんですが、プロジェクトメンバーの懸念事項が共有されると、組織としての一体感が出てきます。ここがリスク・マネジメントの重要なポイントの1つです。
そもそもリスクについての検討は否定的な意見を出すことなので、気持ちのよいものではなく、遠慮しがちな議論になります。まずはPMOが中心となって各メンバーが感じている懸念事項を共有することから始め、リスク検討サイクルを回してみてはいかがでしょうか。
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