2007年2月にインターネットコムとgooリサーチが行った調査によれば、『「検索サイト」といえばどこですか』という質問に、調査対象の半数近くが「Google」と回答したという。

 前回、Nikeの検索ポータル活用戦略については触れているが、そこではGoogle活用戦略については触れていなかった。そこで、Nikeの事例として今回はGoogleの活用戦略にフォーカスして話を進めていきたい。

 まず、NikeとGoogleのタッグといえば、2006年3月に共同で開設したサッカーファン向けSNS「joga.com」が思い起こされる。この「joga.com」はNikeがワールドワイドで展開した『Joga Bonito(ポルトガル語で「美しくプレイしよう」という意味)』キャンペーンの一環で、開設時から14カ国語に対応しており、サッカーファンの国際的な交流の場として展開された。

 Nikeにとってはキャンペーンの効果を高める目玉として、Googleにとっては新たなユーザー層の獲得手段として、両社にとって相互メリットのあるクロスプロモーションの展開だったといえるだろう。

 しかも、Googleにとってこの企画は新たなユーザー層の獲得の他にも、もうひとつの大きな意味を生み出した。それは5月に開始した動画広告サービス「Click-to-Play動画広告」の最初の活用事例が、このNikeのキャンペーンを告知するものとなったからだ。

 Nikeという国際的な企業が真っ先に「Click-to-Play動画広告」を活用したことは、おそらくこの動画広告の存在を世に知らしめるのに、少なからず役立ったことだろう。

 また、NikeにとってもGoogleと手を組んで展開したキャンペーンは非常に効果が大きかったはずだ。なにしろ、近年Googleはネット社会でもっとも注目を浴びている企業であり、その企業と共同でSNSという話題のサービスを提供できたわけだから、ネット上でのクチコミ効果は絶大であった。

 例えば、どこの検索サイトでも構わないので、試しに「nike google」と検索してみて欲しい。検索結果の上位に表示されるページの多くが、ニュースサイトや個人サイト、ブログなどで「joga.com」について語っているページだ。しかも、このケースについて言えば、Nikeは「Click-to-Play動画広告」の最初の導入事例としても、さまざまな場面で話題にのぼることが多い。当然、多くの人がさまざまな語り口でキャンペーンに言及するわけだから、関連するさまざまなキーワードで検索が行なわれた場合、かなりの確度で検索結果の上位にNikeのキャンペーンについて触れたページが露出する。

 つまり、このキャンペーンはNikeが予算を使って世に知らしめた以上に、プロモーション自体の話題性やその革新性によって誘発されたクチコミ効果が大きかったとはいえないだろうか。

 Nikeは、Googleに買収された動画共有サービス「YouTube」でもサッカーのロナウジーニョ選手を使った動画や戦隊モノのヒーローを模した動画などを使って、クチコミを誘発している。さきほどのロナウジーニョ選手を使った動画に至っては、すでに1,000万回を超える試聴数を記録しているぐらいだ。

 では、なぜこれだけの大企業がこうした挑戦を続けるのか。

 その点を考えてみると、多くの企業が革新的な手法や戦略を耳にしても、すぐにその成功例を知りたがるなか、Nikeは真っ先にその成功例になろうとするチャレンジ精神をもった希有な企業であるといえるのではないか。そして、そのチャレンジ精神の源泉にあるのは、革新的な手法や戦略は最初の成功者がもっとも多くの賞賛を浴びられるという現実への理解がある。

 もちろん、革新的な手法や戦略は大きくリスクを伴う場合もある。しかし、そこで得られる先駆者メリットは決して少なくない。

 今後Googleはテレビやラジオ、新聞などのマス広告、ゲーム内広告など、新たなプロダクトを本格的に展開するという話もある。そうした時に、まず真っ先にトライし、先駆者メリットを享受できる企業は、おそらくNikeのようなチャレンジ精神をもった企業なのではないだろうか。

(執筆:営業本部CDチーム 長島徹弥)






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