前回NikeAppleがワールドワイドで展開している「Nike+iPod Sport Kit」のWeb戦略について顧客維持型マーケティングの参考事例として取り上げた。Nikeの事例紹介2回目となる今回は、日本法人ナイキ・ジャパンがネット動画を活用して実施したプロモーションについて取り上げてみたい。

 2006年秋にナイキ・ジャパンは、「キメワザバトル・ムービーコンテスト」と題した動画コンテストを実施した。これは、ナイキ・ジャパンのプロモーション活動の一環で、さまざまなスポーツの得意技を決めた瞬間の映像を一般消費者に投稿してもらい、優秀作品をナイキ・ジャパンのネットCMとして公開するという企画だ。映像作品の募集自体はすでに終了し、優秀作品が公開されているが、ネット上でも大きな反響を呼んだ企画として記憶に新しい。

 しかし、こうした一般消費者が作成した、いわゆるCGCM(Consumer Generated Commercial Message)を企業が活用したケースは、ナイキ・ジャパンだけに限定されない。海外では大手食品会社Frito-Layが2007年に行なわれたスーパーボウルのテレビ中継で放映されるスナック菓子「Doritos」のCMを消費者から公募して話題となった。

 さらに、企業がCGCMを募集したケースとしては、国内ではケチャップメーカーとして有名なハインツとTOKYO MXが共同で行なった事例が知られているし、海外ではFrito-Lay以外にも、スーパーボウルのテレビ中継で放映されるCMを消費者から公募した例もある。また、最近ではCGCMを募集したい企業と提供したいアマチュアクリエーターを仲介する「filmo」や「Awalk」といったサービスも登場しており、ある意味でCGCMの活用は企業のマーケティング活動における最新のトレンドと化している。

 ただし、ナイキ・ジャパンの「キメワザバトル・ムービーコンテスト」やFrito-LayのケースはただCGCMを活用しただけにはとどまらない点に注目すべきだろう。それは、どちらも動画コンテストを展開したのが自社サイト内ではなく、検索ポータルサイトであったという点だ。

 ナイキ・ジャパンの「キメワザバトル・ムービーコンテスト」は、マイクロソフトが運営する検索ポータルサイト「MSN Japan」内で展開され、Frito-Layのケースも、投票サイト「Yahoo!」内で公開されている。

 これは、高い集客力をもつ検索ポータルサイトと手を組むことで、より大きなキャンペーン効果を生み出そうというのが最大の狙いといえるだろう。つまり、ネットユーザーへの高いリーチ率を誇る検索ポータルサイトでキャンペーンを実施することで、自社サイトで展開する場合とは比較にならない数のユーザーにキャンペーンを知ってもらえる可能性があるわけだ。

 そして、注目度の高い検索ポータルサイトと共同でキャンペーンを実施すれば、話題性も高まり、メディアで取り上げられる機会やユーザーの話題にのぼる機会も増え、クチコミ効果も見込める。CGCMと検索ポータルという2つの注目度の高い話題を掛け合わせているのだから、その相乗効果も決して少なくないだろう。もちろん企画自体が魅力的なものなら、検索サイトの運営会社にとっても自社サイトへの集客効果を高める企画として決して悪い話ではないし、全面的な協力が得られる可能性が高い。

 事実、すでに多くの企業がこうした効果を見越し、ヤフーのPR企画としてキャンペーンを実施しているということをご存知だろうか。ソニー・コンピュータエンタテインメントがポータブルゲーム機「PSP」の宣伝用に立ち上げていたサイトなどは、「Yahoo! JAPAN」のトップページを模したデザインで、なかなかおもしろい。また、同じゲーム機でいえば、米国の「Yahoo!」内で公開されている任天堂「Wii」のコンテンツも人気だ。

 言うなれば、こうした手法は雑誌などで目にする「記事広告」のようなものだが、企業がそれだけ検索サイトを活用したプロモーションの重要性を理解しているということの表れだろう。

 企業のなかには、いまだにSEMの効果を過小評価する企業もあるが、このようにNikeをはじめとした高いマーケティング力を誇る企業が、なぜ検索サイトと提携してキャンペーンを実施するのか、冷静に考えてみてもらいたい。

 ネットレイティングスが毎月発表している月間インターネット視聴率ランキングでも、毎回「yahoo.co.jp」ドメインがネットユーザーの80%以上、4,000万人近くのユーザーを集めているのを始め、主要な検索ポータルサイトが軒並み1,000万人以上のユーザーを集めているという現実。これはいったい何を物語っているのだろうか。

(執筆:営業本部CDチーム 長島徹弥)






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