今年に入ってからの電子政府に関する最大のトピックは,なんといっても「情報システムに係る政府調達の基本指針」(以下,調達指針)の策定であろう。3月に策定されたこの指針では,ハードウエアとソフトウエアを分離して(さらにソフトウエアについては「共通基盤システム」と「個別機能システム」に分離して)調達すること,「設計・開発」「運用」「保守」の工程ごとに別々に調達することなどが示されている。併せて,調達計画の作成・公表の義務化や,オープンな標準に基づく要求要件を記載した調達仕様書の明確化なども調達指針に盛り込まれている。

 調達指針案には各所からの異論・懸念も多かったようだが,結局,ほぼ原案通りで総務省行政管理局が押し切った形となった。政府IT調達に対する「随意契約・丸投げ・大手偏重」という批判に応えよう,という強い意思がうかがえる決定と言っていいだろう。

 問題は,調達指針通りにきちんと実行できるか,である。昨年12月に指針案が公表された当初から「政府のIT部門の人材で,そんなことが本当にできるのか?」という懸念が寄せられていた(例えば,「ITpro 電子行政」での安延申氏のコラムや,NIKKEI NETにおける有賀貞一氏のコラムなど)。確かに,今回の調達指針の内容は,従来と比べて発注者側にとってもハードルの高いものとなっている。

明らかになった人材面の不安と,その対応策

 そして,この人材面の懸念を裏打ちする調査結果が4月に公表された。昨年11月に政府が各府省に対して行った「IT人材の実態調査」である。結果は「行政機関におけるIT人材の育成・確保指針(案)」の添付資料として,Webサイトでも公開されている。「ニュース性」という点ではやや旧聞に属する話題ではあるが,あまり大きく取り上げた媒体も見当たらないようなので,ここで改めて調査結果をご紹介したい。政府がこうした調査をきちんと実施・公開したという点をまずは評価したいが,それはそれとして結果は厳しいものとなっている。概要は以下の通りである。

  • CIO補佐官以外にPMO(全体管理組織),PJMO(個別管理組織)を支援する外部人材はほとんどいない
  • 過去にIT関係の職歴・実績を有する者は約3割
  • IT関係の研修受講歴を有する者は約2割
  • IT関係の資格を保有する者は約1割
  • 平均在職期間は2~3年が約8割
  • IT人材のキャリアパスを設定している府省はゼロ

 こうした現状下で,調達指針を着実に実行できるのだろうか。また,2月に行われた第4回経財諮問会議では,民間有識者から「2年以内に内閣IT調達本部の創設」という提言がなされていたが,仮に実行に移すとしても,やはり人材の問題に不安が残りそうだ(なお,調達業務を一組織に集中させること自体の是非は別の論点として存在するが,今回の話題からはそれるのでここでは触れないでおく)。

 もちろん政府も手をこまねいているばかりではない。現状を変えるべく今年4月に策定されたのが「行政機関におけるIT人材の育成・確保指針」である。各府省は,2007年度末までのできる限り早期に「行政機関におけるIT人材育成・確保実行計画」を策定することとなった。まずは効力のある計画が策定され,それが着実に実行されることを望みたい。

 この指針を見てみると,スキルアップ(知識,能力をいかに習得し経験を積ませるか)についての改善ポイントを主に挙げているようだ。今後は,IT部門の人材のモチベーションを向上させるための方針についても,別途明確にしてほしいところである。それは例えば「キャリアパスの設定」や「トップのビジョンをいかに示すか」についてである。

 キャリアパスの設定については,IT部門だけでは話を進めにくい面もあるだろう。「トップのビジョン」は「IT新改革戦略」に示されている通りだが,各府省のCIOが,それぞれのミッションに落とし込んだ形で「本気で取り組む姿勢」を示せるかが重要となる。CIOやCIO補佐官のあり方そのものにまで踏み込んだ議論が必要となるだろう。いずれも難しい問題だが,政府のIT人材を考える上で避けて通れない問題ではないだろうか。