Boon, Matthew J 氏  
Gartner社
Boon, Matthew J 氏,
Gartner Managing Vice President

米Intel対米AMDの闘い,製品を絞り込んだ米HPと米Sun Microsystems,全方位にあくまでもこだわる日本のメーカー,混迷するソフトのライセンス…。貫くべき「ユーザー志向」はどうあるべきか。ガートナーのアナリストに聞いた。
(聞き手・構成は高下 義弘=ITpro)


「メガ・データセンター」という言葉がある。「SaaS(Software as a Service)」が進展する流れの中,大量のデータを処理する,これまでよりもさらに巨大なデータセンターが,世界各地で生まれようとしている。

そこでの主役は,一枚の基盤の上に,サーバーとして必要な機能を実装したブレードサーバーだ。同じ面積にできるだけブレードを詰め込む。空間を可能な限り効率的に使った上で,ブレードを詰め込んだ際に問題になる熱を解決したいというのがデータセンターの切実な願いである。そこでプロセサ・メーカーはブレードサーバー市場に向けて,省電力型のプロセサを続々と投入している。またハード・メーカーも,冷却効率を高め,より高密度に搭載できるブレードのラックを開発中だ。

低消費電力と性能の両立を目指したマルチコア・プロセサ,そしてサーバー機の稼働率を高める仮想化テクノロジー(関連記事)は,いま要注目の技術である。いずれもこうした文脈のなかで生まれてきた。

混迷するソフト・ベンダーのライセンス

ところで,商売の基本は「ユーザー志向」だが,ITベンダーにとっては必ずしもそうはなり切れない面もある。利益を大きく左右する,ライセンス料金の制度や施策のことになればなおさらだ。

ここ1,2年で大きくクローズアップされてきたのが,マルチコア・プロセサにおけるソフトウエア・ライセンスの扱いだ。まだマルチコア・プロセサが登場する以前は,サーバー・ソフトウエアはプロセサ数に応じてライセンス料金が決まっていた。しかし,米Intelや米AMDが昨年からマルチコア・プロセサを続々投入し,コア,プロセサ,ライセンスの関係を,本格的に議論せざるを得ない状況になった。

マルチコア・プロセサは,ライセンスの扱いがやっかいだ。ソフト・ベンダーは当然,1コアに対して1ライセンスを割り当てたい。ライセンス料金を多く稼げるからだ。しかしユーザーにしてみれば,従来通り1プロセサに対して1ライセンスというのが筋というものだろう。プロセサ・メーカーにとってもマルチコア・プロセサ普及の妨げになる。

さらに話を複雑にしているのが,コアとプロセサの組み合わせだ。デュアルコア(2つのコア)のプロセサを4つ搭載したサーバーと,クアッドコア(4つのコア)のプロセサを2つ搭載したサーバーは,いずれも8コアだ。プロセサ数に応じた料金体系の場合,クアッドコアを使った方がユーザーにとっては得である。

だが,サーバー・リソースを業務に有効利用する,という情報システムの基本的な考え方に立ち返れば,これは本質的な議論ではない。

ライセンスの体系について理想を言えば,プロセサやコアの数に関わらず,処理量や処理速度に対する課金が,ユーザーにとって一番納得できるものだろう。視点を一段階高めるわけだ。しかし現在時点では,どのような観点で処理量や処理速度を測定するのか,あるいは測定尺度をどのように設定するのかといった課題が解決しきれないので,実現するのは当分先のことだろう。

現在,1プロセサに対して1ライセンスというソフト・ベンダーもある一方で,1コアに対して1ライセンスというベンダーもある。一定の見解には収束していない。

いずれにせよ,ベンダーを改革に導くのはユーザーの声である。ソフト・ベンダー,プロセサ・メーカー,そしてユーザー企業を交えた,オープンな議論が必要だ。

日本のITベンダーは商品の先行きを明確に説明せよ

ユーザー志向という文脈で言うと,戦略を変更すべきなのが富士通や日立製作所といった日本の大手ITベンダーである。メインフレーム,RISC系UNIX,インテル・アーキテクチャなど,とにかく商品の数が多い。もちろん,日本のITベンダーにしてみれば,「ユーザーに合わせて多様な商品を展開する」というのが理由なのだろうが,実は商品の数が多いと,ユーザーは逆に混乱する。

この点,IBMや米Sun Microsystems,米HPはここ数年,商品のラインナップをコンソリデーション(統合)することに力を注いできた。ラインナップを絞ることで,顧客から見て分かりやすい製品体系にしている。それだけでなく,自社製品の開発・保守コストも削減できるのはベンダーにとって大きなメリットだ。

日本の大手ITベンダーの一部はいまだ全方位で製品を用意している。だが近い将来,統合せざるを得なくなるだろう。問題は,いつ統合するかである。日本のユーザーは国内ベンダーの商品戦略が見えず,次世代のプラットフォームの選択に躊躇(ちゅうちょ)している。道筋を明確に説明すべきだろう。

ユーザーに多大なメリットを与えたIntel対AMDの競争

近年,ユーザーに多大なメリットを与えたのが,IntelとAMDの競争だ。

AMDは2005年,64ビットのデュアルコア・プロセサ「Opteron」を投入し,後手に回ったIntelはデュアルコア製品を急ぎ投入する必要に迫られた。AMDの技術優位性はIntelを刺激し,結果としてユーザーはそのメリットを享受できたのだ。

ただ,AMDの技術優位性は消えつつある。Intelはクアッドコア・プロセサを年内に投入し,さらに来年に向けて,新アーキテクチャのプロセサを準備中だ。一番数が市場に出るサーバー・マシンのボリューム・ゾーン(プロセサを1~2基搭載するマシン)で,IntelはAMDの猛攻を受け,大打撃を受けた。それだけにIntelは必死だろう。

そこでAMDはプロセサの価格を下げ,Intelに対抗することになるだろう。ただこれはAMDにとっては危険な戦術でもある。価格を押し出し始めると,価格ばかりがユーザーや製品メーカーに対するメッセージになってしまう。ただ,現在IntelはAMD側が仕掛ける価格プレッシャーに応じざるを得ない。結局,相応のポイントまでx86系プロセサの価格は下がることになるはずだ。

IBMはAMDのプロセサを積極的に採用する意向を示している。これまでIntelプロセサしか採用してこなかった米Dellも,とうとうAMDのOpteronを採用するに至った。こうしてx86系プロセサは,性能が高まりつつも価格は下がるという構図が続いていく。

ユーザーは,ベンダー同士が健全に競争することで,大きなメリットを享受できる。「それが健全な競争か」をウォッチし声を上げるべき存在が,ユーザーである。 (談)



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