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Gartner社
Daryl Plummer氏,
Sgroup vice president and Chief Gartner Fellow

Steve氏:前回Martinはハードウェア・インフラの変化がスケーラビリティーや管理と言った概念を根本から変えることについて語ったが、ソフトウェアも、その例外ではあり得ない。今回はソフトウェアに起こる変化のペア「デリバリー方法」と「新しい開発モデル」について解説する。

Daryl氏:ネットワーク化の進展によって社会生活が大きく変化する中、ソフトウエアのデリバリー・モデルと開発方法も大きく変貌を遂げつつある。コンピュータが一部の技術者だけのものだった頃とは違い、ビジネスの一部として、普通の人々からの影響力がますます高まり、人間とコンピュータの関係が本質的に逆転しつつあることが背景にある。

ソフトのデリバリー・モデルはSoftware as a Serviceへ

これまでは、「コンピュータはこう動くはず」と人間がコンピュータの動きを想定していたが、今では、「人間はこう行動するはず」と人の動きを想定してコンピュータの機能を作りこんでいる。つまり、人間の行動に注目することによって、コンピュータが価値を生み出すのである。

ソフトウエアとは何か、それをいかに実装するかより、ソフトウエアで何をするかが大切になったのだ。そして、時代に即した新しいソフトウエアのデリバリー・モデルや開発スタイルを生み出されつつある。

新しいデリバリー・モデルの基本的な指針は次の通りだ。
「所有することなかれ、レンタルしよう」
「アプリケーションを買うことなかれ、ソリューションを買おう」
「特徴(feature)を求めることなかれ、機能(capability)を求めよう」
ここでの機能とは、サービスを提供する「特徴」の集合の意味である。
このデリバリー・モデルをSoftware as a Service(SaaS)と呼んでいる。

サービス中心の開発スタイルを意識せよ

SaaSの導入は次のような変化をもたらす。
「サービスとしてのソフトウエアの料金をいかに支払うのか(会計上、資本から経費へと移行)」
「ソフトウエアの保守と開発を誰が請け負うのか」
「ソフトウエアの粒度が小さくなることで、選択のフレキシビリティが広がる」

このように説明すると、ホスティング・モデルと混同するかも知れないが、明らかに違う。
SaaSでは、多くの粒状のソフトウェア機能を、新しいソリューションとして組み立てることができ、それによる新たな可能性が生まれるのである。
例えば、SaaSを利用すれば、既存の保険ビジネスのうち、20%以上のビジネス・プロセスをアウトソーシングすることが可能だと予想している。

SaaSは、多くのオプションを生み出し、より多くのオプションは俊敏性にも貢献する。ひいては、ビジネスに最も適したオプションを選ぶことを可能にする。

こうした、新しいデリバリー・モデルには、それにふさわしい開発スタイルも用意しなければならない。(ネットワーク上)のデバイス数が増え、多くのデータが行きかい、粒度の小さくなった無数のサービスが存在することで、ある種のカオスの状況に陥りかねない。このカオスをむしろ有利に活用するには、よりオープンかつダイナミック、そして多くの人の協力を得られる開発体制が求められる。今後のソフトウエア開発は、今まで以上に門戸を開き、より大規模なコミュニティーによる参加型スタイルをとることになるだろう。

そのようなソフトウエア開発では、「どのようなサービスが何種類あるのか」ではなく、「使用可能なサービスの単位とレジストリ/リポジトリ」や、「サービスの組み立てに使うSOA(Service Oriented Architecture)という考え方、つまりサービス中心の開発スタイル(Service Oriented Development)、そして将来にはEvents 」を意識する必要がある。

オープンソースの世界ではソフトの所有というコンセプト自体が変わる

David 氏:ソフトウェアといえば、開発するか、パッケージで購入するかが、ずっと議論の中心だったが、それも意味がなくなると言うことか?

Daryl氏:そうだ。これからは、特定の問題を解決するにはどのような「機能(capability)」が必要か、その機能を実現するには、どういったプロセスを組み合わせればよいかを考えることになる。したがって、プログラム・コードの種類や開発者の工数の議論ではなくなるのだ。
たしかに、現時点では、まだまだ、機能を提供するソフトウエアを購入するか、自前で開発するしかないが、それ以外の開発手段があれば、「サービス化」への動きはより迅速に進むことだろう。そこで期待される新たな開発手段が「オープンソース」である。

多くの人は、オープンソースをひとつの「開発モデル」と捉えているが、実際にはソフトウエアを入手し、それを発展させるためのコミュニティーといえる。オープンソースの世界では、「パッケージを購入する」とか「自前で構築する」という従来の考え方は当てはまらない。だれも購入することはできないし、構築はコミュニティーの手にゆだねられるからである。オープンソースの世界においては、ソフトウエアの所有というコンセプト自体が変わる。

ソフトウェアの価値は一率ではない。開発コミュニティーの要件によって幾通りにも組み合わせが変わるのだから。

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Web2.0は新しい開発スタイルを示唆

また、オープンソース以外の例として、Web 2.0があげられる。Web 2.0は、ソフトウエアの新しいデリバリー・モデルであると同時に、新しい開発スタイルともいえる。

Web 1.0の目的は情報のデリバリーだった。ブラウザで情報を検索し、入手する一方向の手段だった。それに対してWeb 2.0は「参加」、「機能(capability)」、そして「コミュニティーの発展」といった双方向性を目的としている。
そこでは、サービスを組み合わせることによって、新しい機能が実現する。すでに数十億ドル規模のビジネスとなった着メロや音楽配信のサービスをなどを、Web 2.0はますます発展させ、新しいサービスを生み出すことだろう。コミュニティーに参加する人たちは、サービスを変えつづけるからだ。現に、オークション・サイトを利用する人たちは、自分が出品したアイテムをどのように表示するか、支払いはどうするか、プログラミングなど全く考えずに行っている。

新しいデリバリー・モデルと新しい開発スタイルのおかげで、コミュニティーがフレキシブルにソフトウエアを開発できるようになる。その結果、ソフトウエアの機能(capability)が高まる。このサイクルが繰り返されることで、コミュニティーも成長し、ソフトウエアの開発速度も高まる。これが今後のソフトウエア開発の方程式だ。この好循環が続くことによって、現在の開発体制は消え去り、ソフトウエアの開発という行為の本質が変わっていく。

Daryl Plummer氏
Daryl Plummer 氏は group vice president and Chief Gartner Fellowとして. Emerging Trends group を統括、またソフトウェア・インフラについての主たるアナリストとして、インターネット・プラットフォーム、ウェブ・サービス、アプリケーション開発、統合、ミドルウェア、エマージング・トレンドおよび技術、エンタープライズ・アーキテクチャのリサーチの責任者でもある。また、ガートナー社の上級アナリストが新しい分野についてのリサーチ機会を得るための「フェロー」プログラムの統括責任者も兼務する。

本記事は2006年5月に、米国サンフランシスコにて米Gartner社が開催したシンポジウム(Gartner Symposium/ITxpo 2006) における講演内容を抜粋したものである。