2月の後半頃から米リンデンラボが運営する仮想世界サービス「Second Life」の記事が増え始めたように思う。一般紙を含めてさまざまなメディアがSecond Lifeを扱い始めた。その影響もあってかITproで昨年12月1日に掲載した記事「話題の仮想世界『Second Life』に突入取材,そこには『小京都』もあった」のページ・ビュー(PV)がありがたいことに再び伸びている。

 ログを見ると,2月19日の週からPVが徐々に増え始め,2月26日に突如かなりのPVをカウントした。どのくらい増えたのかというと,同記事が1月に記録した1日平均PVの5.7倍に達していた。何があったのかと思い調べてみると,26日の日本経済新聞朝刊が「米ネット仮想都市に日本企業『出店』・広告効果に期待」という記事を掲載している。どうやらこの記事の影響のようだ。その後もITproの前述の記事はPVを伸ばし続け,過去記事にもかかわらず現時点ではちょっとした新着記事と同水準のPVを達成している。とにかくSecond Lifeは今,旬真っ只中のキーワードだ。

 しかし,筆者はいまひとつSecond Lifeに“乗れない”,というのが本音だ。記事の急増にもちょっと違和感を感じている。

 筆者は昨年10月から11月にかけて,Second Lifeを体験してみたのだが,直感的に「これはYouTubeやmixiほどは流行らないだろう」と思った。操作が難しいし,Second Lifeが特定の目的を設定していない点も「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」に慣れた日本人にはウケないのではないかと考えた。

 と思っていたら先日,ITmediaの岡田有花記者が「Second Life“不”人気、7つの理由」という秀逸な記事を書かれていた。筆者が何となくぼんやりと思っていたSecond Lifeのつまらなさや最近の不自然なまでの盛り上がりの理由をクリアに代弁してくれる記事だ。

 何が起こるのか分からないインターネットの世界で将来を予測するのは難しい。だがあえて試みれば,Second Lifeは今後日本語版が登場したとしても,日本ではそれほどヒットしないのではないだろうか。世界的に見ても,Second Lifeがどの程度まで人気を高めるのか,ひょっとして将来米グーグルが買収してしまうほどまでブレークするのか,といったことは全く想像がつかない。

「オープンなSecond Life」の登場に期待

 ただし,である。今後5年,10年というスパンで考えれば,Second Lifeがインターネットの一つの進化の方向性を示したのは確かだと思う。つまり,インターネットの“3次元コンピュータ・グラフィックス(3DCG)による仮想世界化”だ。現在,私たちは仕事を含め,日常的にWebを使うようになったが,近未来ではインターネット上の仮想世界を多くの一般的なユーザーが使うようになるかもしれない。

 となれば,今後必要となるのは操作性の向上と同時に,3DCG仮想世界間の「相互接続性」だろう。オンライン・ゲームを含め,現在の仮想世界と呼べるサービスは昔のパソコン通信のようにお互いが独立している。例えば,Second Lifeから「Home」(先日発表されたプレイステーション3用の仮想世界)へ移動することはできない。仮想世界がパソコン通信的な閉鎖空間からインターネット的な開放空間へと進化するには,相互接続性が何よりも重要だ。

 こう仮定すると,これからは3DCGの形状データを始め,仮想通貨や物理エンジン,スクリプト実行エンジン,セキュリティ,各種プロトコルなど,仮想世界を作り上げるための“標準技術”に関する議論が始まるだろう。また,仮想世界内の財産権や課税,賭博の問題などを扱う“仮想世界法”も整備されてゆくのではないだろうか。

 聡明なリンデンラボの人達は当然,Second Lifeを相互接続性を重視したオープンな環境へと発展させてゆくに違いない,と筆者は予想する。同社は1月にSecond Lifeのクライアント・ソフト(Viewer)をオープンソース化した。報道によれば,サーバー側ソフトのオープンソース化も検討しているという。これらはSecond LifeをWorld Wide Webと同じようなオープンな技術にするための第一歩なのだと思う。

 現在のSecond Lifeはあまり面白いとは言えないものだ。しかし将来,オープンな“次世代のSecond Life”が出てくるのならば,それはインターネットを拡張する面白い存在になるかもしれない。