1月22日,アイ・エックス・アイ(IXI)という大阪の会社が民事再生手続きに入ったというニュースを見て,少々脈が早くなりました。

 この会社を知ったのは,2006年の始め頃。当時所属していた「日経ソリューションビジネス」で,ITサービス企業の2005年度第3四半期の決算レポートを書いた時です。ITサービス企業各社の中でも,目を見張る伸びっぷりだったのがこの会社でした。

 GIS(地理情報システム)の技術を武器に,物流向けのシステム事業を好調に伸ばしているとかで,売り上げ,営業利益,経常利益ともに,前年同期に比べて2~3倍という,サービス業ではちょっと考えられない伸び方でした。

 すぐ「これはM&Aだな」と思って調べたのですが,していない。では社員数は?IXIは2000年に4~5人で創業した新しい会社で,それが2006年春の時点で127人と,確かに急増していましたが,1年でこれほど伸ばすほどではない。人件費水準も大きく変わってはいません。

 社員1人当たりの売り上げや利益は,当然すごい勢いで伸びていて,知り合いのコンサルタントやアナリストにも聞いてみましたが,売り上げも利益も,ITサービス業で考えられる水準の10倍かそれ以上とのことでした。

 じゃあ,パッケージ・ソフトなどで爆発的なヒット商品が出たのかと言えばそれもなし。大阪にある同社のIR部門に電話して確認したところ,売り上げの9割以上は,システムコンサルティングやシステムインテグレーションなどの,いわゆるITサービスによるもので,この比率は変わっていないというのです。

 これはとにかく取材でしょう。本当にこんなに伸びているなら,ITサービス業界向け雑誌の記者としては,ぜひその理由を知りたいものです。まずは電話で取材を申し込むとともに,業績急伸の理由を聞くことにしました。

あくまで感じはよいのだが・・・

 出てきたのは,IR担当という女性。彼女いわく「社内で情報共有を進めた結果,営業プロセスを効率化し,受注サイクルが大幅に短縮できた。それで,以前よりもはるかに多くの案件を受注できたから」。「ふーん・・・」

 もちろんこれでは何も分かったことになりません。「その手の努力は同業の皆さんもしてるんですが,それでITサービスの売り上げをこんなに伸ばすのは,難しいのでは・・・?」と突っ込むと,さらに彼女は説明してくれました。

 「GISを応用したソリューションの横展開も好調です。パートナーがどんどん増えてまして,メーカーさんなど,大手のほとんどとお付き合いがあります」。なるほど。「例えばどんなところがパートナーになってるんでしょう?」。こう聞くと,彼女は「それは相手もあることですから・・・」とお茶を濁しました。

 先方は親切に応対してくれるのですが,どうもこれ以上詳しいことは,聞けないようです。そこで「いつでもご都合のよいときに大阪に行きますから」と取材協力をお願いしました。しかし「業績発表直後のサイレント期間」だとかで断られ,締め切り前に正式な取材はできませんでした。

ようやく実現した取材らしきもの

 件のレポート記事もなんとか書き終えた頃,ようやく同社を訪問する機会がありました。と言っても,ビジネスの担当者には相変わらず会えず,東京支社に常駐している広報・IR担当の方が会ってくれるということでした。

 出てきたのは,てきぱきした,やはり感じの良い女性2人。こちらの質問にできるだけ答えようという姿勢にも好感が持てます。そこで気を取り直して再度,急伸の理由を尋ねてみました。

 先方が挙げた理由その1は,「上場によって信用度が上がり,これまで無理だった大型案件も受注できるようになったこと」です。その2は「パートナーによる横展開」でした。しかーし。ここでも,具体的なパートナー名や横展開が好調だというソリューションの中身,顧客企業について聞くと,途端に霧がかかったようになるのです。

 一方で,「うちはITを使ったソリューションのモデルを創る会社を自認しています。こと物流に関しては,大阪では『困ったらIXIに聞け』とまで言われるようになっているんですよ」と胸を張る。疑問は深まる一方です。

「聞いたことないなあ」と皆が言う

 そこで引き続き取材をお願いしつつ,間接情報を集めることにしました。こんな赤丸急上昇の会社なら,少なくとも大阪では知られた存在のはず。

 まず大阪でIPOを目指す企業向けのコンサルティングをしている方に,お話を聞きました。彼はIXIを知りませんでしたが,「資料を見る限り怪しいところはないけれど,ITサービス業でM&Aもせずにこれだけ伸びるというのはあり得ないのでは・・・」との意見でした。

 物流やGISに強いSI企業にも手当たり次第聞きました。きっとどこかの案件でぶつかっているでしょうから。まず聞いたのは,大手メーカーでGISソリューションを精力的に売っている知り合いです。でも「IXI?聞いたことないなあ」というのです。

 他にも,物流のSIを手掛ける中堅SIerのコンサルタントや,物流業界専門誌の人などにあたりました。しかし聞けども聞けども「知っているよ」という人が見つからない。

 積極的に怪しいという確証はない。しかし,怪しくないという証拠も,不自然なほどに見つからない。こんな時,個人的には「怪しいグループ」に分類します。しかし記事に「怪しいぞ」と書くには,やはり明らかな証拠がなくてはなりません。

 そういうわけでこの会社,1年近く私にとって喉に刺さった骨のような存在でした。自分で疑問を解消できなかったという苦い思いもありますが,ようやくチクチクが取れた気分です。