米Microsoftが2007年後半に出荷する予定の「Windows Home Server」は,非常に興味深い製品だ。Windows Home Serverの仕様を読み解くと,今後登場する予定の「Windows Small Business Server」など,マイクロソフトのサーバー製品の将来像が見えてくるからだ。

 Windows Home Serverは消費者向けの製品である。ITのプロフェッショナルならば簡単に使いこなせるだろうし,実際に友人に勧めたりする人もいると思われるが,本誌の読者がすぐに使い出すとは筆者は思っていない。なぜならWindows Home ServerはActive Directoryドメインへの参加機能が搭載されていないので,企業システムで使用できないからだ。だからといって本誌の読者の皆さんには,Windows Home Serverに対する興味を失わないで頂きたい。Windows Home Serverの仕様は,ITのプロフェッショナルにとっても示唆に富んでいるからだ。

 Windows Home Serverの詳細については,筆者のレビュー記事「サーバーの概念を一新する「Windows Home Server」,最速プレビュー」を参照して頂きたい。この記事で筆者は,「Windows Home Serverには重要な機能が3つある」と指摘している。そして驚くべきことにその2つが,ストレージ関連の機能なのである。

 まずに,Windows Home Serverは家庭にあるすべてのパソコン(Windows XP SP2以降)の完全なイメージ・バックアップを,自動で実行できる。これによって,バックアップという行為が,個々のパソコンで行われる事務的なものから,家庭用品的な簡単なものになることが期待されている。

 第二に,Windows Home Serverはハードディスクのホット・スワップに対応しており,ハードウエアの制約はあるものの,ほとんど無限にストレージを拡張できる。これはつまり,ハードディスク・ドライブを内蔵・外付けを問わず必要なだけ追加できるということである。また既存のWindowsマシンでハードディスク・ドライブをやたらと増設すると,「C:」や「D:」といったドライブ名が際限なく増え,ユーザーに多大な混乱をもたらしてしまう。しかしWindows Home Serverでは,ストレージを追加してもドライブ名が増えない。ユーザーの利便性が大きく向上する。

 第三に,Windows Home Serverは,デジタル・メディアを簡単に共有するファイル・サーバー機能を備えている。

 Windows Home Serverには,他にもいくつか目立った特徴がある。まずインターフェースの種類が限られていて,キーボードやマウスやディスプレイは一切接続できなくなっている。次に,Windows Home Serverは(ほとんど滑稽なくらい)とにかく単純であり,技術オタク(ナード)ではなく,一般ユーザー向けに設計されている。最後に,MicrosoftはWindows Home Serverをスタンドアロンのソフトウエアとして提供する一方で,米HPなどの主要なサーバー・メーカーにもOEM供給する予定である。

 それでは,Windows Home Serverから透けて見える,次世代Small Business Server(SBS)のヒントとは何であろうか。

 SBSは単純でかつ進化したUIで有名だが,Windows Home ServerはUIの単純化のレベルをさらに引き上げている。Microsoftは2年間という開発期間のほとんどを,用語をできるだけ明確にすることや,ユーザーからの質問をできるだけ少なくすることの実現に充てた。よってWindows Home Serverから,SBSの新しいUIの姿を想像することは可能である。

圧倒的に進化したバックアップ機能

 それでも,筆者がWindows Home Serverで一番進歩したと感じるのはバックアップ機能である。例えば,ネットワーク環境下にあるすべてのパソコンをバックアップできるSBSが登場したらどうなるだろうか。確かに,大量のストレージ容量が必要になる。しかし,Windows Home Serverのように「Single Instance Store(SIS,複数のクライアントPCで重複するファイルは1個だけしかバックアップしない機能)」を利用すれば,サーバーが要求するストレージ容量を削減できる。

 つまり,ネットワーク環境内のすべてのPCが同じ「foo.dll」ファイルを持っている場合は,SISを使用することでそのファイルのコピーが1つだけサーバー上に保管される。Microsoftによれば,クライアントPCの15Tバイトから19Tバイト程度のデータをバックアップする際に,Windows Home Serverに必要となるストレージ容量は300Gバイト程度になるという。これは革命的である。

 また,これらのバックアップは固定的な,融通の利かないものではない。Windows Home Serverでバックアップしたデータは,エクスプローラを使って時系列で閲覧可能で,様々なバージョンのファイルをすぐに取り出せる。例えばプレゼンテーション・ファイルを検索していて,12月15日に作成したバージョンと1月8日に更新したバージョンの両方が必要な場合,両方を即座にデスクトップにコピーできるのだ。

 このほかWindows Home Serverは,多くのSBSユーザーが見慣れている「green badge of health」アイコン(セキュリティ設定が健全なクライアント・パソコンをグリーンのアイコンで示す機能)を使用して,家庭にあるすべてのPCの状況を監視してくれる。Windows Home ServerとSBSの両方で,小規模ネットワークをできるだけセキュアに,かつ最新の状態に保てるのだ。最新のセキュリティ修正プログラムが適用されていないクライアントPCのネットワーク接続を禁止する,ネットワーク隔離機能なども搭載されている。

 Windows Home ServerとSBSは,全く別の製品である。しかしよく観察してみれば,2つの製品に類似点が多いことが分かるだろう。