メニューミックス体制に移行した吉野家の店舗
[画像のクリックで拡大表示]

 吉野家ディー・アンド・シーは2008年中にも店舗システムを再構築する。牛丼販売の店舗運営に特化して開発し、1996年に稼働させた現行の「第3世代」店舗システムを刷新し、牛丼以外の商品も販売する「メニューミックス体制」の新しい吉野家を支えるシステム基盤を今後2年以内に整備する。

 実は吉野家は2003年11月に一度、店舗システムの再構築を決定していた。ところが、その翌月の2003年12月に米国でBSE(牛海綿状脳症)感染牛が発見されて米国産牛肉の輸入が停止されたことに伴い、2004年2月に牛丼の販売を休止した。急きょ、システム刷新も凍結せざるを得なくなった。

 あれから3年が経過し、2006年7月には米国産牛肉の輸入が再開され、2006年9月から吉野家は段階的に牛丼の販売を再開できたため、ちょうど3年ぶりの2006年11月にシステム刷新のプロジェクトも再始動させた。

機能絞り込んだ「牛POS」では業務に耐えられず

 2003年まで、吉野家は牛丼だけで勝負する「単品経営」を続けてきた。店舗システムは牛丼の販売だけを念頭において開発されており、店舗のカウンターに設置されたPOS(販売時点情報管理)レジは通常のフル機能のPOSレジよりも、かなり機能を絞り込んだ小型でシンプルな作りになっていた。こうした吉野家仕様の小型POSレジは、IT業界では牛丼の吉野家にちなんで「牛POS(ぎゅうポス)」と呼ばれることもあった。

 2004年2月以降、吉野家は牛丼の販売を休止し、豚丼などの新メニューを次々と投入して牛丼なしの難局を乗り切ってきた。この間、牛POSには牛丼以外の新メニューをどんどん登録していかなければならなかったが、そもそも機能を絞り込んだ牛POSでは毎月のように登場する新メニューの登録に必要なだけの「キー」が用意できず、キーの割り当てだけでも困難を極めた。メニューによっては、「Shiftキー」まで使って、キーを無理矢理割り当てて急場をしのいできたほどだ。

 そこで2008年中に稼働させる予定の「第4世代」店舗システムは、初めから牛丼以外のメニューまで幅広く扱うことを前提にしてシステムを構築する。つまり、ほかの飲食店に近くなるわけで、フル機能に近いPOSレジが必要になる。そう考えると、2008年以降には現行の「牛POS」が少しずつ姿を消していくことになりそうだ。

 2003年当時、吉野家のシステム担当者が提案していた次世代システム構想にも「メニューミックス体制への移行」という案件は盛り込まれていた。ただし、それはあくまでも「今後10年以内に吉野家がメニューミックスに移行する可能性もあり得る」という程度のざっくりとした予測に基づいたものであり、仮にそうなってもいいように「システムの拡張性をある程度は用意しておく」(システム部隊も統括する鵜澤武雄・財務経理部長)というものだった。

 しかし、2003年末に事態が急変。その後の3年間で、メニューミックスは一気に現実のものになった。既に店舗では牛丼以外のメニューにも固定ファンが付いてきており、今後吉野家が牛丼の単品経営に逆戻りする可能性は小さい。そのため、2008年に稼働予定の新システムはメニューミックス対応が必須になったのだ。このシステムは吉野家グループ全体で導入し、1台当たりの端末コストを抑えていく計画もある。

 現在吉野家は、顧客からの注文内容を入力する携帯情報端末も導入すべきか検討している。ファミリーレストランなどで見かける、店員が使う携帯情報端末と同じタイプのものである。2003年まで吉野家は牛丼だけを販売していたので、人の記憶だけで注文を処理して配膳できた。しかし2004年からは「記憶オペレーション」では店舗が回らなくなり、紙のオーダー票を初めて導入した。一部の店舗では、既に携帯情報端末を使った注文入力の実験を始めており、今は全店に端末まで導入すべきかを検証しているところだ。

日経情報ストラテジー2007年3月号「改革の軌跡 あのプロジェクトの舞台裏」で、牛丼なしでも黒字転換を達成した吉野家の営業現場に密着した記事を掲載しております。