ガートナー ジャパン
リサーチ グループ バイス プレジデント
山野井 聡

 ITリーダーは,経営層や利用部門といった自らの“顧客”と,ビジネスの目線で対話すべきです(前々回のPart2を参照)。

 ところで,皆さんの顧客は,どんなときに仕事での幸せをつかめるのでしょうか。もっと言えば,皆さんの顧客が出世するためには,何が必要でしょうか。ITリーダーはこうした視点を持つと,顧客とビジネスの目線で対話しやすくなります。

 経営管理の視点で良く使われる用語で,CSF(Critical Success Factors:重要成功要因)があります。ビジネスが成功するために必要な要素を列挙したものです。また,それをより具体的に落とし込んだのがKPI(重要業績評価指標)です。こうした経営のための指標を理解し,情報システムの効果や性能をCSFやKPIの切り口で語れるようにすることが,ITリーダーに求められています。

 例えばSLA(Service Level Agreement:サービスレベル合意)はIT分野では一般的なパフォーマンス評価指標ですが,これもまずはCSFやKPIといったより経営に近いレベルで捉え直す必要があると考えています。

 一般的にIT分野の専門家は,このシステムの可用性は99.999%である,と説明しがちます。ところが,その数値自体は,経営層や利用部門からすると,「知ったことではない」ものなのです。

 例えば,販売部門のユーザーならば,ITリーダーにこう問うはずです。「販売業務は一日単位で動いている。システムにトラブルがあって,当日の日締め処理が終わらなければ,次の日の業務に支障をきたす。これを防ぐためには,どれだけの投資が必要か。逆に,どうやっても防げないトラブルが起きる頻度とその大きさはどのくらいか」と。利用部門は常にこうした考え方で動いています。IT部門は,これと同じ目線でITの貢献度や必要性を説明しなければなりません。

 別の例では,携帯電話会社のCSFのひとつは,機種変更時などにいかに顧客の解約を防ぐか,ということです。KPIは解約率になります。これが低ければ低いほどよい。そのために,各社とも顧客の行動特性や嗜好に関するデータを取得し,その傾向を徹底的に調べています。

 これをITの観点からするとビジネス・インテリジェンス(BI)のシステムをどう組むか,ということになりますが,ビジネスの視点からすると,BIは直接の関係はありません。顧客の解約を防ぐというビジネス・プロジェクトの一環として,ITプロジェクトがあり,さらにその一部に具体的なITがあるわけです。言い換えれば,CSFやKPIをビジネス・プロジェクトと共有する,という意識に変えることが必要になるでしょう。