ガートナー ジャパン
リサーチ グループ バイス プレジデント
山野井 聡

 前回は,ビジネス変化にITを即応させるには,「顧客との対話時間を増やす」という「助走」が必要なことを皆さんに提案しました。今回は“減量”について提言したいと思います。

 アジリティ(俊敏性)が求められている今,速く走りたくても,太っていては走れません。第1回でもご紹介したように,企業のIT予算の8割が保守に費やされており,新規投資に使えるのは2割だけ,という現状はやはりおかしいと言わざるを得ません。せめて,この比率が6対4になるように,保守費用を削減していく必要があります。

 6対4を目指すために何をするか。まず,現状の無駄な出費を減らす必要があります。サーバーを統合する,ベンダーへの一括ボリューム発注を進める,長期契約を結んで値引きを促す。これらは戦略的というよりは戦術的かもしれませんが,すぐ効果がでやすいところから手を付けるべきです。

 日本企業にとって難しいのは,人件費の削減でしょう。10年前のコストで,ハードウェアならば10倍以上の性能の製品を買うことができます。しかし,10年前の人件費で今雇える人は7~8割程度でしょう。人のスリム化は難しい。ここはマジック・アンサーがない点です。アウトソーシングをしても,人件費は削減できないケースが少なくないのも,こうした背景があります。人間の能力はムーアの法則には則らないのです。

毎年1割はアプリケーションを減らせるはず

 今年ぜひITリーダーの皆さんにお勧めしたいのは,アプリケーションの資産をポートフォリオとして管理することです。

 社内のアプリケーションを見てください。何割かは,確実に使われていません。使われていないアプリケーションのために,少なからぬ運用費が使われている,というケースがかなり見られます。

 ポートフォリオ管理のポイントは軸の設定ですが,システム規模,ユーザーの活用度,ビジネス上の重要度の少なくともこの3軸で社内のアプリケーションを定量評価し,それぞれのアプリケーションがどの位置にあるかを示したポートフォリオを作ってみることをお奨めします。

 このようなポートフォリオ管理を進めると,不要なアプリケーションが見えてきます。ガートナーの見立てでは,各企業で毎年1割のアプリケーションが不要になります。

 ポートフォリオ管理は,企業経営の視点からアプリケーションの資産性を分析し,スリム化を促す手法です。こうした「経営の視点からのアクション」をIT部門自らが起こしていくと,IT部門のプレゼンスも高まるはずです。