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編集長
桔梗原富夫

 2007年が始まった。「西暦2007年問題」がいよいよ現実になる。2007年問題は狭義には,「団塊の世代」の大量退職により,労働力不足やノウハウ・技術継承の不連続が生じることを指す。だが広義には,業務とITが分かる人材の不足,システムのブラックボックス化も2007年問題といえる。

 実はこの広義の2007年問題がいち早く顕在化したのが,東京証券取引所のシステム障害である。東証は,旧経営陣によるITの軽視によって,(1)開発・運用の完全な外部委託,(2)業務部門ごとの縦割りによるシステムの個別最適化,(3)システム投資の行き過ぎた削減,という問題を抱えていた。それが一連のトラブルにつながったのである。

 日経コンピュータでは,1月8日号で「東証の挑戦―2007年問題との闘い」と題して,システム障害に見舞われた後の東証の取り組みを追った。東証は2006年2月に,NTTグループで大規模なシステム開発プロジェクトを数多く経験した鈴木義伯氏をCIO(最高情報責任者)として招き,改革に乗り出した。

 鈴木CIOに取材したところ,具体的に変えたこととして,(1)ベンダーへの丸投げ体質を改め,発注者としての責任を果たす,(2)システムの全面再構築により,ブラックボックス化から脱却する,(3)行き過ぎたコスト削減を改め適切なIT投資を行い,現場の技術者の士気も向上させる,といった点が挙がった。

2007年問題はシステムや業界構造を見直す契機に

 東証の取り組みはまだ道半ばだが,次期売買システムの発注ですでに成果が表れ始めている。同社は,システムを発注するにあたり,アクセンチュアなどからコンサルタントを迎え,1億2000万円かけて合計1500ページに及ぶRFP(提案依頼書)と要件仕様書を作成した。当然といえばそれまでだが,発注者としての責任を果たすためにやり方を改めているのである。従来は,RFPを書かずにITベンダーに口頭あるいは書面で大まかな要件を伝え,見積もりを出してもらうことも少なくなかったという(発注の経緯をまとめたレポートは近々,「東証システム問題」サイトに掲載予定)。

 2007年問題は根の深い問題だ。しかし,東証の例からも分かるように,システムの開発・運用のやり方を変えたり,IT業界の構造を変革したりする好機ととらえることもできる。日経コンピュータでは,2007年問題の解決策について,事例を中心に引き続き報じていきたいと考えている。

日本版SOX法,SaaS,SOAがIT部門の大きなテーマに

 2007年問題のほかに,システム面では今年のキーワードとして3つの「S」を挙げたい。「SOX法」,「SaaS」,「SOA」である。日本版SOX法については言うまでもないだろう。昨年11月21日に,金融庁から「実施基準案」がようやく公開された。IT統制に関してもかなりの分量を割いて説明している。実施基準が出るのを待って,日本版SOX法対応プロジェクトを本格的に開始しようと考えていた企業は多いはずだ。2008年4月以降に始まる事業年度からの適用に間に合わせるためには,2007年が勝負になる(関連記事)。

 SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)は昨年から頻繁に耳にするようになった。日経コンピュータでも2006年4月17日号で「SaaSの衝撃」を特集した。ソフトウエアの機能をネットワーク経由でサービスとしてユーザーに提供するということで,ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)との違いがよく取りざたされる。日経コンピュータでは,「カスタマイズしにくい」「他のアプリケーションとの連携が困難」などのASPの課題を解決したものをSaaSと定義した。現在のところ,CRM(顧客関係管理)ソフトが先行しているが,今年はERPパッケージ(統合業務パッケージ)のような業務ソフトの分野に広がってきそうだ。

 SOA(サービス指向アーキテクチャ)は,コンセプトから実装の段階に移りつつある。SOAは,企業の個々の業務プロセスを「サービス」と呼ぶプログラム単位で部品化し,それを組み合わせることでシステムを構築する手法だ。これによって,事業環境や顧客ニーズの変化に,システムが迅速に対応できるようにする。すでに大企業を中心にSOAの考え方を採用して社内システムを見直すところが増えている。SOAを実現するためのミドルウエアも充実してきており,今年はSOAの流れが加速するだろう。

 SaaSとSOAは一見,全く関係がないようだが,今後はSOAのアプローチでつくった「サービス」をSaaSで提供するモデルが登場してくると予想される。セールスフォース・ドットコムが提供するアプリケーション基盤「AppExchange」はすでにその方向を先取りしている。

 SaaSが広がってくると,企業のIT部門は,システムを構築する場合に,何を自社でつくり,何を外のサービスでまかなうか,その見極めが重要になってくる。一つの考え方は,他社との差異化につながらないものはSaaS形式で利用し,競争優位に立つための戦略的なアプリケーションは自社開発するという線引きだ。2007年にSaaSが急激に普及するとは思えないが,従来型のASPサービスも含め,着実に根付いていくだろう。日経コンピュータでは近く,SaaS関連の特番サイトをITproで立ち上げたいと考えている。

日本をITで元気に!IT Japan Awardで優れた情報システムを表彰

 さて最後に,ITproの読者の皆様に大事なお知らせがある。日経コンピュータでは今年,優れた情報システムを構築し,顕著な成果を上げた企業・団体を表彰する「IT Japan Award」を新設する。以前,「情報システム大賞」という表彰制度を実施していたが,より開催規模を拡大し,名称も一新する。

 表彰の目的は,優れたIT活用事例を発掘し,その成果を広く紹介することで,さらなるITの可能性を世に知らしめること。それによって,企業や団体のIT部門,ITベンダーを元気づける。ひいては日本の産業の競争力を高めたいという願いを込め,名称を「IT Japan Award」とした。詳細については,1月12日の日本経済新聞に一面広告を掲載する予定なのでお楽しみに。この告知をご覧いただき,ぜひ奮って応募してください。よろしくお願いします。