中堅・中小企業におけるERP(統合業務パッケージ)の利用率は,70.9%と極めて高い割合となっている(連載第1回参照)。ただし,「本来はERPに相当しないような自社開発アプリケーションおよびパッケージ製品をERPと見なしている」,「2つ以上のモジュールを別々に利用している場合は1社で複数回答している」ことがあるため,実際の利用率より高い値が出ている可能性が高い。

 中堅・中小企業では,ERPは広義かつ抽象的に解釈されがちである。回答者の中には,現行の基幹システムを「ERPらしい」と考えて利用しているところもある。さらに,オフコン文化が依然根強く残る中堅・中小企業においては,ベンダーが開発した「ERPライクなパッケージ」も採用されている。ITリテラシの低さが災いして,「従来と大差のない基幹システムをERPのつもりで使っている」という可能性は否定できない。

 実は,本年度の調査から,各アプリケーションの選択肢に「自社製オーダーシステム」という項目を追加した。このため,残念ながら経年の統計推移を正確な数値で把握することが困難になった。この結果,現時点では上記の70.9%という値の妥当性が判断できない。とりあえず確実に言えることは,「7割以上の中堅・中小企業が自社システムをERPと認識しており,ベンダー製のパッケージ化されたシステムを積極的に採用するようになった」ということだ。中堅・中小企業向けのERP市場が賑わいを見せ始めていることは間違いない。

 こうした背景を踏まえたうえで,ERPパッケージのベンダーシェアと評価を見てみよう。

ERPの利用率シェアは混戦模様

 図1の左側の円グラフは,ERPのパッケージ比率を示している。これによると「パッケージ」が74.0%。冒頭で述べた「自社製オーダーシステム」は26.0%という割合だった。パッケージのシェアを見ると,トップが大塚商会の「SMILEαシリーズ(SMILEie含む)」で10.4%,2位がOBCの「奉行新ERP」で9.1%,3位が日本オラクルの「Oracle EBS」で8.7%である。

図1●ERPパッケージ導入比率と製品シェア(Nは有効回答数)
図1●ERPパッケージ導入比率と製品シェア(Nは有効回答数)

 前回紹介したセキュリティ関連のパッケージ・シェアが非常に寡占的であったのに比べて,ここではトップの「SMILEαシリーズ(SMILEie含む)」のシェアが2桁に達しているだけで,2位以下は数多くのベンダーが一桁のシェアでひしめきあっている。

 パッケージのシェア上位5社において,最も高い評価を得ているのが「SMILEαシリーズ(SMILEie含む)」の73.9(図2)。これに「奉行新ERP」の73.5,「Oracle EBS」の72.7,オービック「OBIC7」の67.1,SAPジャパン「R/3またはmySAP」の61.9と続く。シェア上位3社はシェアと評価が比例関係にあるが,シェア4番手のSAPジャパンの「R/3またはmySAP」の評価が若干低めに出ている。

図2●シェア上位のERP製品に対する評価(Nは有効回答数)
図2●シェア上位のERP製品に対する評価(Nは有効回答数)

 年商別に見ると,50億円未満の企業では,シェアトップが「SMILEαシリーズ(SMILEie含む)」で12.9%,2位が「奉行新ERP」で12.0%,3位が「Oracle EBS」で6.0%だった(図3)。年商50億円以上では,シェアトップが「R/3またはmySAP」で7.7%,2位がエス・エス・ジェイの「SuperStream」で6.3%,同率3位が「Oracle EBS」および富士通の「GLOVIA-C」で6.0%だった(図4)。

図3●年商50億円未満企業のERP製品シェア(Nは有効回答数)
図3●年商50億円未満企業のERP製品シェア(Nは有効回答数)

図4●年商50億円以上企業のERP製品シェア(Nは有効回答数)
図4●年商50億円以上企業のERP製品シェア(Nは有効回答数)

 なお「自社製オーダーシステム」の割合は年商50億円未満で31.4%,50億円以上で22.1%。年商規模の小さい企業群の方が高い割合となった。このことからは,資金繰りにやや余裕のある中堅企業から,「ERPパッケージ」へのリプレースを実行していることが分かる。

 最後に参考ながら「今後の利用予定」に話を移す。今後は「パッケージを選択する」という企業の割合が9割に達している(図5)。導入予定パッケージのシェアは,トップが「奉行新ERP」で13.8%,2位がオービックの「OBIC7」で11.6%,3位が「GLOVIA-C」で10.7%だった。

図5●今後のERP製品利用予定(Nは有効回答数)
図5●今後のERP製品利用予定(Nは有効回答数)

 最新の「中堅・中小企業向けERP市場規模」については,弊社Webサイトでもデータを公開している。参考にしていただきたい。

 次回は財務会計を取り上げる。

 なお回答企業プロフィールなどの調査概要については,こちらをご覧ください。

■伊嶋 謙二 (いしま けんじ)

【略歴】
ノークリサーチ代表。大手市場調査会社を経て98年に独立し,ノークリサーチを設立。IT市場に特化した調査,コンサルティングを展開。特に中堅・中小企業市場の分析を得意としている。